オープンソースと林檎の木
インターネットが普及していますが、その主要なソフトウエアの多くは、オープンソー スと呼ばれる誰でも自由にコピーして使うことが出来る無料のソフトウエアが使われています。今回は、少し専門的なコンピュータの話になりますが、このオープンソースの考え方についてお話をします。
オープンソースとは、ソースが公開されているという意味です。ソースと言ってもトンカツソースのソースでなく、物の源という意味のソースです。ソースコードを簡単に言うとパソコンのソフトウエアを作るときに書かれる設計書のことです。ソースコードは、人間が理解しやすい言語で書かれており、それを読めば、どのようにパソコンが動いているかを理解することができます。
ソフトウエア設計書であるソースコードは、本来は秘密にしておくものですが、このソースコードを誰にでも簡単に公開してしまうというのですから驚きです。なぜ、そのようなことができるのでしょうか。
この開発手法は、エリック・レイモンドという人が1997年に「伽藍とバザー ル」という文書にまとめてインターネットに公開したことで有名になりました。レイモンドは、今までの組織的な開発スタイルを「伽藍モデル」、誰もが自由市場に集まり、好き勝手に協調しながら進める開発スタイルを「バザールモデル」と名付けました。インターネットで世界中に分散した協力者は、純粋にプログラミングが好きな優秀なプログラマで、ある意味ではボランティアの集まりでした。彼らは、お金を稼ぐために働くのでなく、自分たちの興味や知的好奇心を満たすために働く、と言う全く新しい考え方を持った人たちでした。
世界で最も大きなソフトウエア会社の全てのプログラマを合わせても数万人規模ですが、オープンソースに携わる様々な企業や大学の研究者からなるボランティアの協力者は全世界で数百万人もいると言われています。しかも、手弁当で開発が進められており、ソフトウエアの開発費は一切かかっていません。これがソースコードを公開でき、価格を無料にできる大きな理由です。インターネットは、このようなボランティアの人たちに支えられているのです。
オープンソースの理解を深めるために分りやすい寓話を一つご紹介します。
昔々、林檎という果物を誰も知らない村がありました。ある時、二人の兄弟が山に遊びに行きました。 二人は偶然、野生の林檎の木を見つけました。始めて口にした林檎は、今まで食べたことのない甘酸っ ぱくて美味しい味がしました。二人の兄弟は、小さな林檎の木を1本ずつ家に持ち帰って育てることにしました。
兄は林檎の木の周りに厳重な柵を作って、村人の 立ち入りを禁止して一人で育てました。肥料をたっ ぷり与えて丹精して育てた甲斐があって、何年かすると大きな美味しい林檎の実が沢山なりました。兄は、その林檎を村人たちに売ると、すぐに大評判になり、大儲けをしました。
弟は、道端の誰でも実がとれるところに林檎の木を植えました。他に仕事を持っていましたので、兄のような手厚い世話は出来ませんでしたが、林檎が好きな弟は、時間の合間を見て、一生懸命育てました。実がなるまでに時間は、かかりましたが、それなりに美味しい林檎がなりました。しばらくすると、木の周りには小さな林檎の木が生えてきました。弟は、近所の人たちと一緒に育てたら、もっと楽しいと思い、みんなに林檎の木を分けることにしました。林檎の木のそばには、次のような立て札を立てました。
「この木は、「オープン林檎」と呼んでください。 どなたでも、ご自由にお持ちいただいて結構です。 しかし、この林檎の木は他の人にも分けてください。そして、育て方も教えてあげてください。決して独り占めしないでください。それから、林檎の木の近くには、これと同じ立て札を立ててください。」
何年かすると、弟が分けた「オープン林檎」の木は色々な所に植えられて増えていきました。それぞれの木には、弟の林檎の木と同じ立て札が立ててありました。ご近所同士で林檎の木の育て方を教えあったり、肥料のやり方を工夫したりして林檎の木はどんどん増えていきました。村人たちは自分で育てた林檎を食べて幸せに暮らしました。
兄の林檎はどうなったのでしょうか。弟の林檎の木が増えてから、一時期、売上は減りましたが、 売上を増やすために林檎ジュースなどの新商品を開発し、従業員も増やして本格的に林檎会社を始めました。しかし、林檎の木の育て方やジュースの作り方は企業秘密にして、相変わらず村人たちには教えてもらえませんでした。兄の会社では、林檎の木が大きくなりすぎて、変な虫が付くようになり、それが悩みの種になりました。しばらくすると、兄は過労が原因で病気になって入院してしまいました。林檎の木の世話をする人がいなくなり林檎の木は枯れてしまいました。
みんなが便利に使っているインターネットは、情報はできるだけ公開してみんなで使おうという考えが根底にあります。権利を主張して一部の人が情報を独占してしまうことは、インターネット本来の考えに反しています。そして、たくさんのボランティアによって支えられていることに感謝する必要があります。
このホームページの作成ツールであるWordPressもオープンソースです。
WordPress はフリーかつオープンソースのソフトウェアで、世界中のボランティアの開発者たちの分散型コミュニティによってつくられています。WordPress はそのライセンス、つまり GPL (GNU General Public License)のおかげですばらしい、世界観が変わるような権利を備えています。
・ユーザーは、目的を問わず、プログラムを実行する自由を有します。
・ユーザーは、ソースコードを入手可能であり、プログラムがどのように動作しているか研究し、そのプログラムに必要に応じて修正を加え、採り入れる自由を有します。
・ユーザーは、身近な人を助けられるよう、コピーを再頒布する自由を有します。
・ユーザーは、プログラムを改良し、コミュニティ全体がその恩恵を受けられるよう改良点を公衆に発表する自由を有します。
(高25期 廣瀬隆夫)
高 29期卒業の廣川裕司といいます。ここ10年ほど
レッドハット、ミドクラ、ホートンワークスなど
OSS会社での営業活動に勤しんでいます。
OSSの考え方(いいことはシェア)について
非常に分かりやすお話をシェア頂きまして有難うございます。
Facebookでも友人に登録させていただいております高25期の廣瀬です。OSSの大御所である廣川さんから、このようなコメントをいただけたことを、大変に光栄に思います。私はOSSのシェアという考え方が大好きで、横高の同窓生にも知っていただくために、この文章を書きました。これからも、他のITについての話題も少しづつ載せていこうと考えています。以前、横高で廣川さんが在校生向けに話された内容も非常に興味深いものでした。この記恩ヶ丘HPに載せてもさしつかえないコンテンツがありましたらお送りください。今後とも、よろしくお願いいたします。
こういうつながりが良いですね。
記恩ヶ丘の会のメンバーは、弟の林檎の木のようにオープンでいきたいですね。兄のやり方は、長続きしないと思います。