▶100歳まで現役で働く トーマス野口さん(中32期)

横中、横高の同窓生のみなさんは、トーマス野口さんという方をご存知でしょうか。私は、名前だけは存じ上げていましたが、横須賀高校の先輩であることは知りませんでした。今回、「ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言」という本を読んで、そのことを初めて知りました。この本を参考にして野口さんについてまとめました。(高25期 廣瀬隆夫)

トーマス野口さんは1927(昭和2)年1月4日に福岡で生まれました。トーマスというと日系二世のように聞こえますが、日本生まれの日本人です。本名は、”野口恒富”さんで、”つねとみ”では、アメリカ人が発音しにくいので、渡米してから富の”トミー”が転じて”トーマス”と名乗るようになったそうです。

野口さんは、横須賀の若松町にあった野口医院の医師であったお父さんの仕事の関係で、幼少の頃、横須賀に移り住み、横須賀中学に入学しました。野口医院は、近藤礼三さん(高8期)のご実家から100メートルくらいの所にあったそうです。この本には、廃業して野口ビルになったとしか書いてありませんが、近藤さんのお話によりますと、その辺りに映画館があったということですので、野口ビルで映画館をやっていたのかもしれません。近藤さんのお父さんの近藤石蔵さん(中14期)も横須賀中学の卒業生で、野口家のことは良くご存知だったようです。

野口医院の跡地の映画館は「金星劇場」という名前で、横須賀下町の栄枯盛衰をスケッチし八期のホームページの投稿欄、No.517、 2012年09月28日付、「栄枯盛衰、変わりゆく横須賀中央繁華街」に載っておりますのでご覧ください。
yokohachi.com/yokohachi-hp-1/sub1043.htm

同級生にノーベル賞を受賞した小柴昌俊さん(中32期)がいました。野口さんは、子どもの頃のケガにも負けずに立派な医師・細菌学者になった”野口英世”を尊敬していました。大学は、彼の出身校だった日本医科大学を選びました。大学を卒業して1952年に25歳で単身渡米。カルフォルニアのロマ・リンダ大学(Loma Linda University)で臨床・解剖病理学を専攻し、猛勉強して1961年からロサンゼルスで検視官になりました。

その後、アメリカ最大規模の検視局であるカリフォルニア州ロサンゼルス地区検視局の局長や全米監察医協会の会長、世界医事法学会の会長などを歴任し、世界で最も尊敬される法医学者の1人と言われています。日本人がアメリカの公的機関のトップに就任したのは史上初めてのことでした。

野口さんは、1962年に35歳という若さでマリリン・モンローの検死解剖を任され、その後、ロバート・ケネディ上院議員や実業家のハワード・ヒューズなどの検死の執刀をされたことで有名ですが、この本を読んで、子ども時代の志を貫き通す意志の強さに、吉田庫三先生の薫陶を受けた横高(中)生らしさを感じました。

お父さんが横須賀で野口耳鼻咽喉科医院(現在の若松町の野口ビル)を開業していた時に、患者(海軍の兵曹)の医療事故で亡くなった家族から、医療ミスではないかと告発されました。裁判の結果、えん罪が認められたのですが、その時の記憶が強く頭に残り13歳だった野口さんは、死体を解剖して死因を突き止め真実を導き出す法医学の分野に進みたいと志を立てました。この若さで、自分が本当にやりたいことを見つけたことは、すばらしい彗眼です。

1944(昭和19)年に横須賀中学を卒業した後は、日本医科大学で医学の勉強をする傍ら、法律の知識を習得するために夜間は中央大学の法学部で学びました。その後、1952(昭和27)年の25歳の時に、法医学が最も進んでいた米国に単身で乗り込み、敗戦国の日本に対する人種差別が激しい時代に、サンゼルス地区検視局長まで登りつめたのです。「ドクター刑事クインシー」という検死官の活躍を描いた米国の人気テレビ番組が日本でも放送されましたが、そのモデルがトーマス野口さんだと言われています。

野口さんは、長い人生の中で、闘病、迫害、差別、離婚(後に復縁)など何度も苦境に立たされていますが、「ダメになったときに、すぐに立ち上がろうとする人こそ、成功を手にできる人だ」と、この本の中で言っています。何度挫折しても、少しもへこたれずに麦のように立ち上がってくる野口さんの生き様に感銘を覚えました。

現在、九十歳をこえられていますが、精力的に活動されており「100歳まで生きるのではなく、100歳まで現役で働く」と言われているそうです。野口さんのバイタリティは、まだまだ、尽きることはありません。

参考:ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言 山田 敏弘著 新潮社 2013年

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