▶頭のメタボ対策「ルーの三原則」の効用
ルーの三原則という法則を中学の保健体育の授業で、ポン太というアダ名の先生から教えてもらったことを今でも覚えています。たぬきのような大きなお腹をした先生で、野球の試合で負けるとバットでお尻をどつかれました。今だったらマスコミネタでしょうね。そのポン太先生も数年前に亡くなってしまいました。(20190829 高25期 廣瀬隆夫)
ルーの三原則は「筋肉の機能は適度に使うと発達し、使わなければ退化し、使い過ぎれば障害をおこす」というものです。
中学の頃は、腹筋したり、腕立て伏せをしたり、走ったり、よく運動をしていました。体力が付いてくるのが自分でも楽しみでした。大人になって、そういう運動をいつのまにかしなくなってしまいました。還暦を過ぎて、この傾向は益々顕著になりました。歳をとると体力が衰えるのは、当たり前と考えるようになり、このまま、体力が衰えるのを待っているのか、と寂しい気持ちになっていました。
そんな時、ふと、この法則を思い出しました。歳をとるから筋肉が衰えるのでなく、筋肉を使わなくなったから退化しただけではないのか。
お寺の世話人の中にTさんと言う人がいます。九十歳を過ぎていますが、たいへん、お元気で、お寺対抗のボーリング大会にも毎年参加して私よりスコアが良いんです。
話を聞くと若い頃から運動が得意で、鉄棒の大車輪などもできたそうです。今でも週に何回かジムに通って体をきたえているのだと話されていました。
そこで、一念発起して、自分ももう一度、体を鍛え直そうと思いました。でも、時間がない。そこで、何かをやりながら鍛えるというマルチタスクを考えました。毎日、ドライヤーで髪の毛を乾かすので、その時に足の屈伸運動をやることにしました。ドライヤーをかけながら毎日30回、しゃがんでは立ち上がるという動作を繰り返すことにしました。最初は、かなりきつかったですが、次第に楽になり、もう半年続けていますが、やらないと気持ち悪いほど習慣化しました。
せいぜい、5分位ですが、この運動をやるようになってから、駅の階段を登るのが苦にならなくなりました。草取りをやっても、よっこらしょということもなくなりました。気のせいか、太ももに張りが出てきたようにも感じます。ポン太先生が教えてくれたルーの三原則のおかげです。この法則は、90歳を過ぎても通用するらしいです。
これは、筋肉への適用ですが、脳にも当てはまるのではないかと最近思えてきました。認知症が社会問題になっていますが、脳を使わないことによる衰えではないかと考えています。私が尊敬する、外山滋比古さんという人がいます。ベストセラーになった「思考の整理学」を書いた人ですが、この人も、もう九十歳を過ぎていますが、今でも、さかんに本を出しています。年取ってますます筆が冴えて認知症とは全く無縁です。
最近の著書の中で、脳にもメタボリック症候群というものがあると言っています。脳が記憶しすぎて余計なことが頭の中にたまりすぎている状態だといいます。それを解消するには、忘却力が大切と説いています。忘れて頭の中を空っぽにすると記憶できるスペースができて新しい知識を吸収できると言うのです。頭の中に情報を出し入れするのが脳の健康に良い、と訴えています。忘れることが大切とは、受験生が聞いたらひっくり返るでしょう。
どんなに忘れようと思っても、その人の深部の興味や関心とつながっていることは忘れない。灰汁の上澄みのように残ったものがその人の個性となり、新しい思考やひらめきにつながるということです。記憶という能力は機械にかないません。パソコンやAIに対抗するためには、ひらめきで勝負するしかない。自分で考え失敗することで、人はひらめき、成功にたどり着けると、と外山さんは言っています。
年をとって、物忘れが激しくなったと嘆くより、忘却力が増えて、脳が健康になってきた、と思った方がよほど気持ちが明るくなります。これから、どんどん忘れて、好奇心を持って面白い知識を頭に放り込むという脳の鍛錬を自分で実践してみたいと考えています。
【参考】
乱読のセレンディピティ 外山滋比古 扶桑社文庫 2018年