▶長谷川郁夫さんの思い出
2014年刊の評伝『吉田健一』で大佛次郎賞を受賞した文芸編集者で小澤書店の創業者、長谷川郁夫(高18期)さんが、2020年5月1日、食道がんでお亡くなりになりました。謹んでお悔やみ申し上げます。長谷川郁夫さんの思い出を書かせていただきました。(高10期 上田 寛)
長谷川さんとは2015年の夏、同窓会報「朋友」の取材でお会いしました。大阪芸術大学教授で大阪在住のため、上京された機会に神田神保町のビアホール「ランチョン」でインタビューさせていただきました。このお店は吉田健一(英文学者)との思い出の場所で、「吉田健一という“人間”にじかに触れることができるのが愉しみだった」と話されています。
早熟な文学少年だった長谷川さんは中学生の頃から、通学路にある平坂書房で本を買い、毎日一冊読むのを日課としていました。横高在学中は文学書や哲学書を夜遅くまで読み漁り、朝は起きられず遅刻の常習犯だったそうです。勉強はしないと決めており、よく卒業させて貰えたと述懐されています。
早稲田大学文学部在学中の1972年に小澤書店を創業し、以降30年間、多くの文芸書の出版を手がけ、詩集や批評など審美眼を貫く文芸出版社として知られていました。
大阪での仕事が一段落したら横須賀に戻り、海を見ながら人物評伝を書き続けたいと望んでおられました。3月に退職されたようですが、少しでも願いが叶っていれば良いのですが。心からのご冥福をお祈り申し上げます。
*評伝『吉田健一』は、著名な英文学者で評論家吉田健一(父親は元首相の吉田茂)の生涯と著作の全容を評した653頁に及ぶ大著
参考 5月2日朝日新聞、会報「朋友」83号
小沢書店の長谷川郁夫氏とは、亡夫(前田隆之介)の遺言→「遺作集は小沢で出してほしい」によりお会いしたのが初めてでした。遺稿集単行本『使徒』は出来上がり、その後わたくしも書き溜めた短篇を『三田文學』などに載せて貰えるようになり→作品社から小説集『ラプンツェルやラプンツェル』など出していただけました。頑丈そうに見えた長谷川氏だったのに、と、いまだに信じられない思いでございます💧