▶慎思録「過ちは恥ではない」
貝原益軒は、健康法を書いた養生訓が有名ですが、慎思録は、八十五歳の亡くなる年に書いた人生訓です。ここに書いた言葉を子孫に残して家訓にして欲しいと序文に書いてあります。
ジュリアス レスター (文)、ロッド ブラウン(イラスト)による「あなたがもし奴隷だったら・・・」という絵本があります。15世紀の奴隷貿易によってアフリカからアメリカへとモノのように運ばれ、奴隷として農園などで働かされた人たちの実態を伝える絵本です。決して繰り返してはならない過ちです。
NHKスペシャル「証言と映像でつづる原爆投下・全記録」、ハートネットTV「優生思想と向き合う 戦時ドイツと現代の日本」など、毎年、この時期になりますと、TVで戦争の映像が流れます。戦争という人類がおかした大きな過ちの記録です。
「過ちは恥ではない」という文章には、長い人生を送ってきた益軒の自戒の念と、同じ過ちを繰り返すなと言う強いメッセージが込められています。死を目前にした八十五歳の益軒は、過ちを気にするな、悪いことに気がついて改めれば、また前に先に進める、と言っています。慎思録からの抜粋を掲載しますのでお読みください。(高25期 廣瀬)
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「過ちは恥ではない」 慎思録 貝原益軒
人は聖人ではないのだから、誰もが過ちをおかすであろう。仮に過っても、これに気づいて改めさえすれば、過ちはなかったことに等しい。であるから、人に過ちがあったからといって恥とすべきではない。
ところが、私心が強くかたくなな心であれば、過ちを過ちとして知ることができない。たとえ知っても改めようとしない。恥じなければならないのはそれである。過ちであったならば、これを過ちでないとし、さえぎったり、おおいかくしたりしてはならぬ。みずからの過ちとして明らかにし、早速に改めるがよい。そうすれば心術(心だて、気分)においても少しの損失も感じられない。恥じることなど何もないのである。
子貢は、「君子の過ちや、日月の食の如く、過てば人みな之を見る。更(あらた)むるや人みな之を仰ぐ」とはこのことをいうのであろう。もし、過ちを恥じながら非行をして、しかも自分の過ちでないとし、偽ったり粉飾したり、おおいかくすようなことをすれば、その過ちはますます増大し、欠陥がすき間から百出するであろう。これは、はなはだ醜態といわなければならない。子夏はいう、「小人の過つや必ず文(かざ)る」とは、まさにこういう意味である。