▶IEの廃止とブラウザの今後
ホームページを閲覧する時に、みなさんは、どんなブラウザをお使いでしょうか?Windowsにプリインストールされていましたので、マイクロソフトの 「Internet Explorer」(IE) を使われている方が多いと思います。
マイクロソフトは、長らく標準のWebブラウザとして採用してきたIEを、2022年6月15日をもって廃止すると今年の5月19日に発表しました。IEの廃止の経緯と今後のブラウザの動向についてまとめました。(高25期 廣瀬)
IEは、1995年にWindows95にバンドルされて鳴り物入りでデビューしました。この頃は、Appleは倒産寸前の瀕死の状態で、Googleは会社自体存在していませんでした。アマゾンは設立したばかりで赤字経営でした。まさに、マイクロソフトが、Windowsで天下を取った時代でした。稼ぎ頭は、オフィス製品で、インターネットの普及はこれからでしたので、IEは客寄せパンダ的な存在でしたが、IEを抱き合わせてWindowsを販売しているとして独占禁止法に違反するとして提訴も行われました。
IEのデビューより少し前に小さな動きがありました。WWWを開発したティム・バーナーズ=リーがブラウザの標準を定めるための団体のWorld Wide Web Consortium (W3Cコンソーシアム) を1994年10月1日に創設しました。彼は、スティーブ・ジョブズのNeXTSTEP上でWWWを最初に動かしたUNIXなどのオープンシステム志向の技術者でした。
その頃のブラウザの機能は低くて、複雑なWebページの動作はブラウザ単体の力では難しく、業務で使うためには機能追加が必要でした。マイクロソフトは、1996年に、ブラウザでOfficeドキュメントを表示できる「ActiveXドキュメント」や、動画や音楽の再生、3Dグラフィックの表示ができる「ActiveXコントロール」、スクリプト言語などの機能を統合するための「ActiveXスクリプティング」などを独自に開発してIEに組み込んでいきました。
当時は、Web開発を行うためには、Microsoft謹製のActiveXを使うことが効率的で手っ取り早い選択肢でした。その後、Mac、Windows、Linuxで使えるOpera、AppleのSafari、MozillaのFireFox、GoogleのChromeなどのブラウザが出てきましたが、特に日本や韓国では、Webアプリの開発はActiveXベースで進められることが多く、業務アプリを使うエンドユーザーは、IEを使わざるを得ない状況になりました。今でも、IEでしか動かないネットバンキングなどの業務アプリはだいぶ残っています。マイクロソフトの囲い込み戦略が成功したかのように見えました。
ティム・バーナーズ=リーのW3Cコンソーシアムは、HTML4からHTML5へと機能を追加して着実に進化を重ねて、ActiveXを使わなくても開発に不便を感じないようになりました。Safari、FireFox、Chrome等のブラウザは、HTML5を採用し少しづつシェアを伸ばしていきました。WindowsベースのマイクロソフトIEとUNIXベースのGoogleののChromeなどのブラウザの対立関係が明確になりました。2006年にGoogleのCEOであるエリック・シュミットがクラウドコンピューティングを提唱し業務アプリがクラウドに移行し始めると、ビジネスの主戦場がデスクトップからクラウドに移りました。
このような状況でActiveXが広まるにつれて、ネット上の情報資産を狙ってハッカーたちが動き始めました。不正プログラムを勝手にダウンロードしてウイルスを感染させてしまう、コンピューターを乗っ取って遠隔操作する、コンピューター内の情報を盗み出す、システムを破壊するなどの不正行為を行うActiveXコントロールを悪用するソフトが出回りました。ActiveXは、脆弱性のあるプログラムの代名詞のようになってしまいました。
IEはセキュリティホールを塞ぎながらIE11まで版を重ねましたが、ついに、2013年に開発を断念しました。マイクロソフトは2015年に、過去のしがらみを断ち切った新しいブラウザであるMicrosoft Edgeをリリースしました。改良を重ねて、現在は、ライバル関係にあったGoogleのChromeのエンジンを取り入れています。一つの時代を作ったIEは1995年のリリースから27年の歴史に幕を下ろすことになりました。Windowsで天下を取ったマイクロソフトも、イノベーションのジレンマには勝てなかったということです。
現在、マイクロソフトは、2004年にApple、Mozilla、Opera、Googleの開発者たちによって結成された「Web Hypertext Application Technology Working Group(WHATWG、ワットワーキンググループ)」のメンバーになっています。
ブラウザ戦争は、これでケリが付いたように見えますが、技術の進歩は日進月歩、各社の技術者は、もっと使いやすいブラウザを目指してしのぎを削っています。これからインターネットの窓であるブラウザがどのように進化していくのか、マイクロソフト、Apple、Googleがどんなビジネス戦略を展開していくのか楽しみに見守っていきたいと思います。
【ブラウザの歴史】
1991年 最初のWorld Wide Web がティム・バーナーズ=リーにより公開される
1993年 米国立スーパーコンピュータ応用研究所 (NCSA) に所属するマーク・アンドリーセンがNCSA Mosaicを開発
1994年 4月 モザイク・コミュニケーションズ(後のネットスケープコミュニケーションズ)が設立され、NCSA Mosaicを引き継ぐNetscape Navigator が発表される
1994年 ティム・バーナーズ=リーがWorld Wide Web Consortium (W3C) を創設
1995年 マイクロソフト社が NCSA から Mosaic のライセンスを取得して Internet Explorer を開発
1996年 Opera 登場
2003年 1月 Safari 登場
2004年 Firefox 1.0 リリース
2004年 Apple、Mozilla、OperaがWeb Hypertext Application Technology Working Group結成
2008年 9月 Google Chrome 登場
2013年 Internet Explorer の開発を終了
2015年 7月 Microsoft Edge リリース
2021年 5月 InternetExplorerの廃止を宣言
2022年 6月 InternetExplorerの廃止
【ブラウザのシェア】2021年7月
https://webrage.jp/techblog/pc_browser_share/
(日本の順位)
1位 Chrome 56.26%
2位 Edge 15.93%
3位 Safari 7.56%
4位 IE 4.58%
5位 Firefox 4.27%
6位 360 Safe Browser 0.93%
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(世界の順位)
1位 Chrome 61.15%
2位 Safari 8.27%
3位 Edge 7.59%
4位 Firefox 4.57%
5位 IE 1.26%
6位 Opera 1.1%