▶クモを飼う(高22期 高橋 克己)

サラリーマン生活の半分は単身赴任だった。始まりは94年1月から3年半の三重、最後は14年3月末まで2年3ヵ月の台湾だ。初めと終わりの住まいはそこそこ広かったが、40過ぎて罹った喘息で自宅から通勤できず、14年も住んだ大井町のアパートはキッチンと居間だけだった。

学生下宿の経験はないが、大井町のアパート生活は差し詰めそれで、7畳の居間の壁はチェストの上から天井までの手作り本棚、そしてCDラックとTV台、床には折り畳みのちゃぶ台とソファベッドが置いてあり、手を伸ばせば必要なものに届いた。

帰国と同時にリタイアして丸10年、大井町の居間とほぼ同じ広さの我が書斎兼寝室は、本が5~6倍に増えた分だけ学生下宿っぽさが増した。私の使う部屋は隣にもう一間あるが、南側の居間・和室・洋間は家内の縄張り。勢い、常用するものを自室に詰め込むことになる。

両壁には本棚大(250x75x24)が3本と小が(180x95x18)2本あり、大1本は2mに梁があるので、壁までの10cmを板で塞ぎ単行本を二重に置く。反対側の大2本も奥に単行本、手前に文庫・新書と二重置きだ。隣の部屋の大2本とCDラックにも本が詰まっている。

床にはリクライニングチェアとデスク(本棚の下部を改造した)チェアがあり、PCは脚立とキャスター付の棚の上に置いている。寝る時はチェアと脚立とキャスター棚を端に寄せて出来た1m余りの空間に簀の子とマットレスを敷く。手を伸ばせば本が積んであるので寝入るまで読む。

狭くて雑然とした自室の説明を長々としたのには、こんな理由(わけ)がある。

今朝、ふと天井を見上げると蜘蛛が一匹空中を漂っているではないか。しばらく観察していると天井から糸を垂らして、巣をつくる魂胆らしい。が、床まではまだ人のせいほどもある。諦めたか、そのうち糸を辿ってシーリングライト辺りに身を隠してしまった。

「人間環境との関連性が非常に強く、フケやアカ、埃が溜まりやすい素材のもの(布団・ソファー・畳など)や、人の出入りが多い場所に発生します」

「人やペットを刺すことはありませんが、チリダニの死骸や糞を吸い込むことにより、アレルギー性の喘息、鼻炎、眼アレルギー、アトピー性疾患の原因となります。また、チリダニが多くなると、その捕食者であるヒトを刺すツメダニの発生を助長します」

自室は「人の出入りの多い場所」どころか四六時中そこに居るのだし、現にチリが積もって山になっている箇所もあるのだろうから、「チリダニ」が居ないはずがない。だが、喘息ならここ30年来の持病だから今やベテラン、きっちりコントロールできている。

つまり、日々発生するチリを来る日も来る日も手間を掛けて掃除するよりは、掃除は偶にすることにして、「チリダニ」とそれを捕食するという「ツメダニ」の退治は「チリグモ」に任せる方が合理的だと、ずいぶん前に思うに至ったのである。以来、私は「チリグモ」を飼っている。

共生というならクマノミとイソギンチャクが有名だが、クマノミの安全確保に対し、イソギンチャクの受ける便益は解明されていないそうだ。私と「チリグモ」の場合、「チリグモ」は餌の確保、私は不精の享受が便益ということになる。お陰で「ツメダニ」に刺されたことは一度もない。

    ▶クモを飼う(高22期 高橋 克己)” に対して5件のコメントがあります。

    1. 松原隆文 より:

      蜘蛛はヒトの仲間ですね。ハエ取りグモがハエを捕まえているのを何度も見ています。大きいクモはゴキブリを捕食します。それを見てからは大きいクモを排除するのを止めました。以前お腹に卵を抱えたメスクモを蠅叩きで叩いたんですね。ほんとにクモの子を散らしました。ちょっとかわいそうでした。
       話が飛びますが、我が家のサクランボは、今年は裏年なのか、実なりが悪かった。一度収穫しましたが、今朝見たら、残りは鳥に食べられました。まあいいかな、ですね。

    2. 加藤麻貴子 高22期 より:

      チリグモを最近見ていません。時々パソコンの画面を闊歩、いえそろそろと歩いていて可愛らしく思いました。子供の頃、蜘蛛を殺してはいけないと言われて育ちました。クモを漢字で書くと恐ろしい虫のように感じますが、チリグモと片仮名になるとユーモアすら感じます。娘の家では虫ごときで大声を上げるような子どもにしたくないとのことで虫には寛容な態度で接してきました。その結果孫は昆虫大好きな男児となり素早く虫を捕まえるのが得意です。小学生の時には虫嫌いの男性の先生が担任で偶さか教室に虫が闖入してくると孫が呼ばれ、即座に素手で捕獲して外に逃がしていたそうです。

    3. 高22期 伴野 明 より:

      蜘蛛の思い出はけっこうあります。家業が八百屋だったせいか、店に蜘蛛がやたら多くいました。
      親父によると、「野菜などと一緒に入ってくるんで仕方ないんだ」とのこと。
      子供の頃はゴムパチンコなどで打ち落とす遊びをしていました。何かの記事で「蜘蛛は益虫だ」と知って撃つのをやめました。
      益虫、害虫の区別は公式にあるのか、疑問ですが。
      遊びの方は、逆に蜘蛛の巣に昆虫をわざと貼り付けて、蜘蛛がそれをグルグル巻きにするのを観察するようになりました。

      蜘蛛は怖くは無いが、あまり歓迎しないレベルです。
      思い出した事ですが、八百屋のお手伝いの女性、当時30~40歳ぐらいの人ですが、その人、蜘蛛を捕るのがうまいんです。大きな蜘蛛を片手でヒョイと捕まえて、「まねしちゃダメだよ、噛まれるから」と教えられました。

      最近は蜘蛛との遊び方が変わりました。
      パソコンを操作しているとき、ハエ取り蜘蛛がモニターの端に登ってきました。ずっと見ていると、なんとマウスポインタの矢印を虫と間違えて追っているんです。こりゃあ面白い、と追かけっこ。わざと止まっていると「捕まえる」とジャンプしました。しかし捕まえた筈が、なぜか「手応えが無い?」と不思議そうです。これが面白い。
      皆さんも試して見たら。

    4. 廣瀬隆夫 より:

      私も祖母から、クモは殺してはいけない、と言われて育ちました。我が家は、山に近いので、いろいろな生き物が侵入してきます。ゲジゲジ、ザトウムシ、コオロギ、ゴキブリ、ウスバカゲロウ、カメムシ、ヤモリなどなど。人に危害を与える蚊やムカデなど以外は逃してやることにしています。

      今回のダニを退治するためにクモを飼っているというお話は興味深く拝読させていただきました。人間も自然の一部だということを認識して、一緒に生きていくとう考え方に賛同します。

      最近、雑草を根こそぎ枯らしてしまう除草剤や、巣穴の蟻を退治する薬などが出回っていますが、TVのコマーシャルを見ていて、良いのかなあ、と思っています。生き物がいなくなった世界って味気ないと思います。

    5. 和田良平 より:

      蜘蛛は見た目もグロテスクで、余り気持ちが良いものではありませんが、我が家でも殺しませんよ。大きなやつは外に出したくなりますが、家の中で虫を捕まえるんだろうと考え、罪一等を減じて(勝手な判断ですが)、外には出さずに追いやります。風呂場で会うこともあり、溺れてしまうと大変だし、噛みつかれるかどうか分かりませんが、乾いたところに逃がします。ゴキブリや蚊は容赦なくその場で死刑ですがね。それとナメクジはいけません。先日も床を這っていたのを発見して、すぐ対応しました。どこから入ってくるのでしょうかね?
      ダニを取るために飼っているというのには感心しました。付き合い方は難しいですね。

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