▶台湾とテキサス(高22期 高橋克己)
「日本とメキシコ」(高22期 加藤麻貴子さん)の記事を拝読しました。私のメキシコのイメージは「お人好しの国」です。西部劇などでは一部小狡そうな人物も登場しますが、多くは銃撃戦の中で逃げ惑う人々のそれです。ちょうどメキシコも関係する記事を書いたところなので、合わせてご一読下さい。
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5月20日に行われた頼清徳の台湾総統就任式に米国代表団5人とは別に出席したポンペオ前国務長官は、民間人の気楽さも手伝ってか、あるいは次期トランプ政権での猟官を意識してか、従来からの持論を次のように述べて、存在感を示しました。
-台湾は主権独立国家だ。米国はそれを承認すべきだ。これは事実であり、正義に対する堅持でもある。全世界の安定への一歩でもある。台湾は中華人民共和国と中国の代表権を争っていない。いま大多数の台湾人は台湾だけを認めている。そのため、米国は戦略における曖昧政策を終え、戦略上の必要性と道徳に基づいて台湾は主権独立国家だと承認すべきだ。-
ポンペオが共和党の保守外交の雄なら、内政の雄の一人はテキサス州知事グレッグ・アボットです。若い頃に事故で下半身不随になって30年余り、不屈の精神が彼の車椅子生活を支え、国境の壁建設や不法移民のバス移送を継続しています。
そのアボット知事が7月7日、州の経済発展代表団を率いて頼総統を表敬訪問しました。訪台の目的は台湾とテキサス州の「経済発展協力に関する覚書」の締結と台北への「テキサス州在台事務所」(State of Texas Office in Taiwan)の新設です。
注目プロジェクトの1つは、22年に公表された台湾のシリコンウエハー企業「Global Wafers」のテキサス州シャーマン市への工場進出です。米国の半導体サプライチェーンの問題に資するだけでなく、約1500人の雇用創出により州の地域経済強化にも繋がることが期待されています(7日の『Newsweek』)。
この『Newsweek』記事を読んで、斯くも米台の紐帯は強固なのかと驚いたのは、テキサス州が台北に事務所を開設する23番目の米国州であることでした。アボット知事はこう述べています。
テキサス州も米国も、世界全体の将来にとって強い台湾が重要であることを理解している。台湾とその将来を強化するために私たちができる最善策の一つは、経済関係を拡大し、台湾が経済的にさらに強くなることだ。
ポンペオと言い、アボットと言い、台湾贔屓には頼もしい限りですが、テキサスの来し方を多少齧ったことのある私には少し思うところもあります。
「Global Wafers」が工場を立地するテキサス州シャーマン市の名は、テキサス独立戦争の英雄シドニー・シャーマン将軍(1805年-73年)に因みます。その戦争は、当時はメキシコだったコアウイラ・イ・テハス州の「テハス(Tejas)」がメキシコからの独立を目指して1835年10月から約半年間行われました。
メキシコの一州の独立戦争に米国の将軍が加担した事情はこうです。当時の米国は「マニフェストディスティニー」を合言葉に、インディアンを蹴散らして西部の開拓に邁進していました。そしてミシシッピ川以西の開拓は、それまでにフランスとスペインが拓いていたルイジアナから始まります。
1803年、就任3年目のジェファーソン大統領は214万km2(日本の約6倍)のルイジアナを僅か1500万ドルでナポレオン治下のフランスから購入、12年には州にします。西漸は英国の産業革命を背景にした旺盛な綿花需要に応じるべく更に進み、22年頃からは奴隷を伴った農園主が続々と「テハス」(後のテキサス)へ移住しました。
メキシコは奴隷を禁止していましたが、テクシャン(Texian:米国人)はお構いなしに入植し、32年には独立を求めてメキシコに戦いを挑み、勝利します。この戦いではメキシコ大統領でもあったサンタ・アナ将軍が、アラモ砦のテクシャン守備隊約200人を全滅させた出来事も起きました(36年2月)。
テキサスの独立はこの戦争の最中3月2日に宣言されました。そして翌4月、サンタ・アナはサム・ヒューストン将軍(1793年-1863年)率いるテクシャン軍との戦いに敗れ、米国に亡命します。斯くてテキサスは10年後の1845年、アメリカ合衆国の28番目の州として併合されることとなるのです。
シドニー・シャーマンは、テキサス共和国の初代と3代目の大統領になったヒューストン将軍の部下でした。ヒューストンの初代政権の州務長官は、彼が「テキサスの父」と呼んだスティーブン・オースティン(1793年-1836年)でした。彼らの何れもが今もテキサスの大都市に名を残しています。
以上が米国によるテキサス併合の経緯です。他国の領土に入植した自国民が独立を唱えて武力蜂起し、独立を宣言させた後、自国に併合してしまうという手法は、目下東ヨーロッパで起きていることや、この先の東アジアで懸念されている事態と、その目的とするところも合わせて、どこか似ています。
この時代の西欧列強の手口は、米国のハワイやパナマ運河の奪取などを含めてこの類です。米国がこういった歴史の上に今日の繁栄を謳歌している以上、その台湾政策をポンペオのそれに転換すべきではないでしょうか。テキサスに手を付けてほぼ2世紀、上海コミュニケからも半世紀が経ったのですから。
テキサスには、テキサスインスツルメント(TI)という集積回路を作っている会社があります。就職して初めて設計した装置の心臓部に出たばっかりだったTI製の4ビットのワンチップCPUを使いました。TTLという論理回路に使う部品もほとんどがTIの製品でした。テキサスが台湾との友好関係を結んでいるというのはハイテク分野のつながりなんでしょうね。