▶罪の償わせ方(高22期 高橋克己)

いたずら盛りの子供の頃、「表に立ってなさい」と良く母に叱られた。30分と経たないうちに、「ごめんなさい、もうしません」と玄関を開けて家に入ったものでした。もちろん学校でもしばしば廊下に立たされました。再発防止にどれだけ役に立ったか判らないが、ともかくそうして罪を償わされました。

本稿では、飲酒と喫煙が発覚してパリ五輪代表を辞退した女子体操選手への罪の償わせ方について思うところを述べてみます。というのも、その出来事があって、罪に対する罰の与え方・償わせ方について考えさせられた二つの出来事を思い出したからです。先ずはその一つ目・・・

6月7日、障害者向けグループホーム(GH)の大手運営会社「恵」がサービス報酬を自治体に不正請求するなどした問題で、川崎市が市内の1施設を6ヵ月の事業所指定停止にしました。26日には愛知県と名古屋市が障害者総合支援法(支援法)に基づき、「恵」の県内5ヵ所の事業者指定を取り消しました。

厚労省も支援法に基づいて連座制を適用し、「恵」が全国12都県で運営する他の99ヵ所のGHが順次運営できなくなることとなりました。支援法には、不正行為に組織性がある場合、同一法人が経営する他の施設について、6年毎に行われる指定の更新を5年間認めない連座制の規定があるからです。

「恵」の犯した不正とは、食材費の実費のみを受領できる厚生労働省令を悪用し、18年以降利用者一人当たり月25000円の食材費を受け取りながら各施設には同8000円しか支給せず、約3億円を過大に徴収していたというもの。月に朝昼晩90食とすれば1食90円に満たないことになります。

この処置に伴って、定員1700人とされる「恵」の入所者は、別の施設を探して移らねばならない羽目に陥りました。99の施設で働く、おそらく1000人は下らない従業員も転職を余儀なくされることでしょう。施設に出入りする業者にも不都合が生じるはずです。

私はこう思いました。不正を働いた経営者とそれに加担した幹部らは厳罰に処せられるべきだが、入所者にも、一般の職員にも、出入りの業者にも、まったく罪はないではないか。だのに、これら無辜の人々に負担を強いるような罪の償わせ方を執って良いのだろうかと。

「恵」は近年になって急成長したGHらしいので、近隣の同業GHには空きがあるのかも知れず、ならば入所者も従業員も出入り業者もさして困らないのかも知れません。だとしてもそれは偶々のことで、無辜の関係者にしわ寄せが及ぶような罪の与え方は好ましくないでしょう。

ではどうするかと言えば、経営者と幹部には懲役と多額の罰金を科す一方、施設は残った従業員で運営を続けられるように、厚労省なり自治体なりが支援をするのです。このケースの場合、運営停止は最悪の処置です。つまり、法律や政令が、守るべき対象を間違えている。守るべきは弱者です。

次の事例は台湾在勤中の話。高雄日本人会で持ち回りの会長をしていた当時、ある会員企業の顧客(台湾法人)が汚染物質を流出させ、高雄市政府から無期の営業停止処分を受けました。会員企業の話では、当該顧客には大陸に子会社があるので、仕事はそちらに移ってしまい高雄に戻らないだろうとのことでした。

私は面識のある高雄市政府の部長に面会して、汚染物を出した企業の仕事が大陸に移ってしまう事情を説明し、再発防止策が確認出来次第、営業停止処分を解き、その分だけ罰金を上乗せすべきであると助言しました。利に敏い台湾人のこと、再発防止対策の指導まで行って、短期間に営業停止を解いたのは言うまでもありません。

必要なことは、先ずは再発防止策を立てることであり、罪を償わせるのはその次のことです。営業停止が長引けば、企業が仕事を失って倒産することもあり得る。顧客の先にも顧客がいるのを忘れてはなりません。SDGsが叫ばれる中、安易な営業停止は最も持続可能性のない罪の償わせ方ではないでしょうか。

19歳10カ月の女子体操選手による練習会場での飲酒・喫煙は、「二十歳未満ノ者ノ喫煙ノ禁止ニ関スル法律」に触れる行為で、あってはならない。各自治体のサイトには「タバコは体の成長や健康に悪影響があるだけでなく、非行を犯す少年に喫煙者が多いことから『非行の入口』と言われています」とある。

報道によれば常習ではないらしいので、五輪代表という日々の重圧の中、ふと魔が差して手を出してしまったのでしょう。どういう経過で露見したのかは余り詮索したくありません。きっと選手仲間の誰かの通報でしょうから、またその誰かが騒ぎの対象に加わることになる。

私を含め二十歳前に飲酒・喫煙した経験がある者の方がきっと多い。が、健康を害しもせず、非行にも走らなかった。親や教師にバレても大事にならなかったのは「普通の人」だったからで、「普通の人」なら当たり前のことが、「五輪代表」だとそうでなくなるのはどこかおかしい。それは世間が騒ぐからで、それによって協会幹部が保身に走るからです。

この事件に被害者はいません。敢えて挙げれば当人で、それが守るべき対象です。彼女には、罪一等を減じて五輪代表に復帰させ、パリ五輪に全力を尽くすことが何よりの償いであることを説き、五輪が終了し帰国してから一定期間の社会奉仕でもさせれば良いのです。こんなことで日本の宝を腐らせてはなりません。

    ▶罪の償わせ方(高22期 高橋克己)” に対して2件のコメントがあります。

    1. 松原隆文 より:

      一言だけ。この件、指導者は処分されないんですかね。未成年者の喫煙だから監督不行き届きですよね。多額の国家予算を投じて公共の施設を使用し、国民の期待を背負っているのだから、やはりルールは守ってもらいたいものです。出場辞退が妥当かどうかは分かりませんが。

      1. 高橋克己 より:

        おそらく「辞退」に追い込んだのでしょうから、指導者も「丸刈り」ぐらいはしないと、確かにバランスが取れませんね。

    コメントを残す

    メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です