▶経験者が語るパリ五輪柔道審判(高22期 高橋克己)
パリ五輪柔道で阿部詩選手が一本負けした翌日の昼下がり、細君の実家福井で避暑中の友人M君からLINEが着信し、一応黒帯の私と以下のような審判談義になりました。学生時代のバイト2年後輩のM君は柔道三段、当時は178cmx100㎏+の巨漢でしたが、今は身長だけ6cmも縮んだそうです。
2024.07.29 月曜日 12:23
M:日本中どこに居ても暑い!そんな中、パリ五輪の柔道を見てあまりにも審判がなっていないことに暑くなっています!これも日本の柔道人口の少なさが原因か?
13:05
私:そうね。審判の質の悪さは今に始まったことではないが酷すぎるね。まず「待て」と「指導」が早過ぎるから、試しに両方共やめにすることだ。寝技の価値を認めないからか「待て」が早くなる。
でも永山は負けだ。問題は「待て」をしたのに相手が締めをやめなかったことだが、そもそも締めているのに審判か「待て」をすること自体がおかしいから、永山は負けだと思う。
3つ目の「指導」で決着がついた試合がいくつかあったが、こんなことは許されない。10分でも20分でもとことんやらせればいずれ決着がつくのだから「指導」も要らない。
それと昔なら「有効」程度だった技が今は「技あり」。「技あり」の範囲が広すぎる。「有効」を復活して、「有効」2つで技ありにすれば良いと思う。日本では旗判定を復活させるようだね。審判がイヤホンしていて、外で座っているレフリーが判断するのはおかしいから、副審を二人置いての旗判定の復活は良いと思うね。
阿部妹の敗因は投げられ慣れていないことだ。あそこで身体を丸く屈めていれば「技あり」で済んだ可能性がある。投げられ慣れていれば自然にそうするだろう。そこへいくと、井上尚弥がダウンした時に8カウントまで片膝ついて息を整えていたのは凄い。初めてのダウンだったのに。
14:34
M:まったく克己さんの指摘に同感です!永山に同情意見が多くありますが、あの時点で「待て」はないし、力を抜いてはダメでしょう!ウタちゃんはかわいそうだけど安易に技をかけにいくリスクを、身をもって体験したと思って四年後のリベンジをはたしてほしい!
14:38
私:詩は相手に上手く体を寄せられてしまったね。寄せられた時に、無理に内股などに行かずに離れるべきだった。少し油断したかな。でも負けた相手が金メダルだから実質は銀メダルだ。
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昨日(8月2日)の女子78kg超級と男子100㎏超級で個人戦が終わり、今日3日の団体戦で柔道の日程は終了です。果たして、LINEで談義した通り、審判の判定が勝負を決着させてしまう試合が余りに多かった大会でした。つまり、本来は目立つべきではない審判の拙さだけが記憶に残ってしまった。
期待した斎藤立君は意気込み過ぎたか、肩に力が入って浮足立ち、どっしり感が見受けられませんでした。対照的に女子78kg級のキューバの選手は、スッとした立ち姿に安定感が感じられ、組んで直ぐこれは強いと判りました。が、彼女にも開始早々に「指導」。そういう審判にこそ「指導」です。
そのくせ所作には「指導」をしない。選手は畳に上がる前に顔を見合わせて「礼」、次に仕切線まで進んで「礼」をし、一歩前へ出る。そこへ審判の「始め」の声があって、試合が始まる。決着後は道着の整え仕切線の一歩前に立つ。そこで審判が判定を下し、両者仕切線に下がって「礼」で終わるのです。
昔は昇段審査でも、この所作が出来なければ何度でもやり直されたものでした。が、パリ五輪ではけじめなく始まって、決着後も喜んだり悲しんだり。それを審判も咎めない。日本人の女性審判が一度だけ、負けてしゃがみ込む選手の肩に触れ立つよう促したのを見ましたが、審判はああでなくてはいけません。
後輩のMです。柔道をした者からすると今の柔道、特にオリンピックのそれは我々がやっていた講道館柔道とは別物で、特に審判の視点がまるで違います。柔道とは技をいかにかけきるかであり、ポイントを争ったり、反則を狙うものでは無いのに、そんなところばかり見ているように見えます。この現状は日本で柔道をする人が減少し、発言力が低下したことにあるようです。神奈川県内の県立高校に柔道部があるのはわずか11高校とは情けなさを超えて悲しくなります。敬愛する猪熊先輩を輩出した横須賀高校も現在柔道部は有りません。寂しいですね!柔道とはあくまでも武道で、礼に始まり礼に終わる、どんなに悔しくても泣いたりわめいたりせず、礼をしてさがると子供の頃町道場の師範から教えられたことは七十になっても忘れません。
Mさん、コメントありがとうございます。さすが高段者の弁、重みがあります。県の公立校11校しか柔道部がないとは嘆かわしい。
当時県大会で強豪私立校に負けると、「勉強で来い!」と部内で強がったものでした(みな300番台なのに)が、今はそっちも・・。
文武両道復活を期待したいですね。
柔道だけに限らず、勝つためにルールに違反しなければ何をやっても良い、という風潮になっているのではないかと思います。柔道は、礼を重んじて、真っ向からぶつかり合って、正々堂々と技の良し悪しで勝負するというようになってもらいたいですね。