▶経験者が語るパリ五輪レスリング(高22期 高橋克己)
柔道では審判の判定が物議を醸したパリ五輪の格闘技、レスリングが始まったので再び経験者が語ります。とはいえ、私のレスリング経験は高2の12月から高3の10月までの300日に過ぎないので、ルールも技も未経験者よりは多少知っている程度であること、先ずはお断りしておきます。
ご存じの通りレスリングには2つのスタイル、すなわち、フリーとグレコローマンがあります。フリーでは攻撃にも防御にも全身を使うことができます。が、グレコローマンでは、相手の腰から下(下半身)を攻撃することも、また自分の下半身を攻撃や防御に使うことも出来ません。
グレコローマンなる語、つまり「ギリシャ+ローマ」が示唆する通り、足枷をはめられた者同士(おそらくは捕虜and/or奴隷)を戦わせたことにその起源があることから、上半身だけを使うことになったというのが私の想像です。が、かつて何かで読んだことがあるのかも知れない。
フリーでは反則、即ち、殴る・蹴る・締技や関節技(柔道ではOK)、プロレス技で有名なフルネルソン(相手の背後の脇の下から両腕をこじ入れて相手の首の後ろでクラッチを組む技。片方だけのネルソンはOK)などの他はどんな技でも構いませんが、制約のあるグレコでは使える技が限られます。
グレコの立技は、胴タックルで相手を仰向けに倒す、双差しからのそり投げ(後ろor横に)、頭を付け組み合っての首投げなどが4ポイントの大技です。男子60kg級金メダルの文田選手はそり投げと首投げに成功しました。寝技には、バックを取ってから両手で相手の胴を巻き、持ち上げて後ろに投げる、あるいは片ネルソンで相手を仰向けに返すなどがあります。
フリーの立技には、グレコ同様の胴タックルの他、両足タックル、片足タックがあり、前二つは持ち上げて投げるか後ろに倒し、片足タックルではバックを取ります。寝技では前述のグレコ技2つに加えて、相手の腿を足で挟んで裏返す股裂きや、腿を両腕で抱えて裏返す技などが使えるようになります。
「アンクルホールド」という、バックを取って相手の両足首(アンクル)を交差させ、両腕で抱え込んで持ち上げ気味に相手をくるくると返していく技もよく使われます。バックを取って2ポイント、1度回すと2ポイントなので、3度回せば8ポイントの差がついて、その時点で勝ちになります。
さて、私が佐々木先生からグレコの無差別級(当時は73kg以上)に出るよう指示されたのは、柔道仕込みの首投げが有効と先生がお考えになったからでしょう。あるいはレスリングの基本であるブリッジ(仰向けに倒された時、首で支えて肩をマットから浮かせる)すら満足にできなかったからかも。
高2の2月の県大会(2位)、高3の6月の関東大会(2位)、8月のインターハイ(初戦敗退)、10月の国体(初戦敗退)でそれぞれ1度負けましたが、後は県予選を含めて10数回勝ち、そのほとんどが開始から30秒以内の首投げから袈裟固めでのフォール勝ちでした。
そもそも柔道着の引き手と釣り手(右組の場合、相手の右袖を左手で、左襟を右手で各々掴む)で相手を崩してから掛ける柔道の技と、互いに腕と胴と首・頭しか使えないグレコでは体の使い方が全く異なるので、技もブリッジも拙い私には「首投げ⇒袈裟固め」のワンパターンしかなかったのです。
が、佐々木先生は「首投げ⇒袈裟固め」があると見たのでしょう。真に慧眼で、なぜなら最初に組み合って、そこで首投げが決まればほぼ勝ってしまうのですから。でも関東大会では習志野高校の吉野君にバック投げ(カール・ゴッチの原爆固め)を食らってフォール負けしましたっけ。
吉野君のセコンドは一級上で早稲田に進んだ五輪候補の磯貝頼秀氏でした。1日目の予選で彼を見て気後れし、2日目の3人の決勝リーグは試合前に負けていたのです。結局、吉野君が判定負けした選手に私がフォール(F)勝ちし、1F勝1判定負、1F勝1F負(私)、1判定勝1F負で金銀銅が決まりました。勝負事で気後れは禁物です。
最後にパリ五輪女子68kg級で銅メダルを獲った尾崎野乃香選手、大相撲宇良関にそっくりな彼女の愛くるしい顔貌にすっかり魅せられました。その宇良関ですが、「居反り」などの反り技が得意なうえ、角界随一の握力だそうで、グレコの選手になっていたら五輪金メダル間違いなしだと思います。 おわり
追記 柔道と同様に相撲も礼に始まり礼に終わります。前屈みして「下がり」を外す所作を礼の代わりにする輩も少なくない中、宇良関や北勝富士関は勝とうが負けようが、両足を揃え深々と礼をして土俵を降ります。観ていて実に清々しい。
高橋君はレスリングでも良い成績だったのですね。私たちが1年生の時、女性の体育の先生はいなくて佐々木先生が女子の体育を受け持っていました。うろ覚えですが佐々木先生は護身術や二人一組のゲームで「足首を捕まえられたら負け」というような格闘技の先生ならではの授業をしてくれたことを思い出しました。
麻貴子女史とは4組で3年間過ごしたのに、私のレスリング歴を知らないなんて(笑)。女子はほとんど知らないようです。
今日、暑気払いした猪股君(1組、剣道部、大学も同じ)も本稿を読んで初めて知ったと。柔道部のアルバイトだから仕方ない。
日本代表は男子も女子も強い。「アンクルホールド」炸裂させてます。8p差で勝ちと書きましたが10p差のようです。
宇良関のことを書きましたが、レスリングも押しが重要で、押し出すと1p取れます。相手がそれを避けようと横に逃げると、隙が生まれます。横から攻められると防ぎにくいので。
小生は貴兄の活躍を知っていました。私は1組で貴兄は4組だったので、朝、貴兄が廊下をノッシノッシと通過していくときに皆で、「あいつ100キロ有るんだとよ!」等と噂してました。運動の苦手な小生は貴兄を畏敬していました。
その後予備校で同じクラスになり、勉強の方も(そこそこ)出来たので、貴兄の言う文武両道なんだな,と感心していました。
今日まで付き合いが続くとは意外ですね。
日本のレスリングは相変わらず強く喜ばしい限りです。宇良関は中学時代はレスリングに軸足を置いていたのでいろいろな技を繰り出せるのだと思います。