▶日本語は難しい:ハリス氏の「豹変」は新婚気分に「棹を差す」?(高22期 高橋克己)

7月下旬にバイデン氏が11月5日の次期大統領選挙への不出馬を表明し、急遽、副大統領(VP)のカマラ・ハリス氏が民主党の候補に選ばれました。途端、VPとしては史上最低の支持率20%台だったハリス氏の大統領としての支持率が40%台後半になって、トランプ氏と拮抗する珍事が起きています。

米国の各メディアはこれを「honey moon」と報じています。つまり、新婚のご祝儀同様に有権者が甘い評価をしているという訳です。が、未だにメディアのインタビューに応じないなどの批判がある中、ハリス氏は反対だった天然ガスの水圧破砕採掘に賛成する演説をするなど、主張を豹変させています。

そこで仮に日本の新聞が、このハリス氏の様子を本稿が表題にした「ハリス氏の『豹変』は新婚気分に『棹を差す』?」という見出し記事で載せたら、果たして読者は記事の内容をどのように想像するだろうかという、良くある日本語の語句の誤解を考えてみる、というのが本稿のテーマです。

先に正解を書けば、記事の書き手は「ハリス氏が主張を変えたのは立派であり、良いことだから、それは目下の新婚ご祝儀の勢いを更に加速させる」という意味合いで書いています。逆に「ハリス氏が主張を翻したのは好ましくないから、今の勢いを止めてしまう」というのは見出しの誤読です。

なぜ誤読が起きるかと言えば、カッコ書きした「豹変」と「棹を差す」という語を、現代の日本人の多くが本来の意味とは逆の意味に理解しているからです。

つまり、日本で広く用いられているような「悪い意味」、すなわち「変節漢」や「無節操」のような意味合いは、本来はないということ。また大人も君子も両方「徳の高い人」を意味するので、虎も豹も秋になると共にその毛皮を美しく生え変わらせる様に、両者にも差はないのでしょう。

「流れに棹差す」も現代では多くの場合、「雰囲気を壊す」といった良くない意味に使われ勝ちです。が、これも「船頭が水の流れに逆らわずに水棹を操る」ことの意味なので、そこにマイナスの意味合いはありません。こうなった理由の一つは「水を差す」(=邪魔をする)という語のせいでしょう。

もう一つには、「智に働けば角が立つ情に棹させば流される」という漱石の『草枕』の冒頭の一文があると思います。意味は「理知だけで割り切っていると他人と衝突するし、他人の感情を気遣っていると、足元を掬われる」。「棹さす」は他人の感情を「気遣う」意味ですが、文全体として負のイメージです。

以上が正解の解説です。が、多くの人に誤解があることが判っているこの種の言葉を、敢えて日常使うのには勇気が要ります。斯くて日本語の乱れが進行し、語彙が減っていくのでしょう。

    ▶日本語は難しい:ハリス氏の「豹変」は新婚気分に「棹を差す」?(高22期 高橋克己)” に対して1件のコメントがあります。

    1. 和田良平 より:

      昔、会社勤務の時に、「君子豹変」は悪いことではないと先輩に教えられ、自分でも調べて納得した経験があります。そのときの情景まで覚えています。そうなんだとびっくりした記憶が心に焼き付かせたのかな?言葉のことは気になり出すと大変ですが、日本語が壊れていく感じさえしてしまいます。喫茶店でウエイトレスが、「コーヒーになります」というのは大変気になり、その都度注意して、嫌われております。
      「情けは人のためならず」も同じようなものですね。

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