▶[小説] 天狗の鼻 第6話(高22期 伴野明)

6:夢の中の夢

「貴さんのご意見も、ごもっとも、それでふと思ったんだけど、今のオレ達、『夢の中の現実』にいる。これって『ラノベ』じゃないね、辻褄が合ってるから」
「そうだ、『現実感最高の夢小説』とでも言っとくか」
 じゃあ、夢を作ろうじゃんか、オレは前向きになってきた。同時に面白い事を思いついた
「貴さん、ラノベの話で思いついたんだけど、いい、こういう発想はどうだろう、
今が夢の中だとして、オレ達が寝て、夢を見たらそれは『夢の中の夢』ってことにならない?」
「『夢の中の夢』か、面白い、おまえ冴えてるな、さすがオレの孫だ」
 体の事を忘れてた。疲れてる。
「貴さん、ちょっと寝ようよ」
 同感だったようだ、オレたちは眠りについた。

 どのくら経ったろう、夢の中で目覚めた。オレはまた、お地蔵さんの前に横になっていた。貴じいさんも一緒だ。
 景色が違う、お地蔵さんは確かに目の前にある、だが遠くの方は霞んで見えない。
まるで近眼になったみたいだ。
 貴じいさんも目覚めた。目をこすっているから、同じ症状なんだろう。
「遠くが見えねえ」貴さんのお目覚め第一声だ。
「やっぱり」と感じた。
 と言うことは「遠くに行くな」って意味だと解釈した。この状態で遠くに行ったら迷って帰ってこれないもの。

 改めてお地蔵さんを見ると付近の景色が違う。中央の石碑は変わらないが、回りには棚があって、お供え物らしき置物がきちんと置いてある。
「何だこれ?」カエルの置物みたいな物があった。しかし陶器じゃない、表面が生のヌメった感じがある。
「これ、生きてる」、よく見ると僅かに動いてる。呼吸もしているようだ。
 その隣には羊羹(ヨウカン)みたいな黄色い物がある。動くかどうか分からないが細かい足が生えてる。これも生き物感がありありだ。
ムカデ、蜘蛛みたいなものもある。どうもこれらは古代生物みたいだ。形も不気味だから触る気にもならない。
 その棚はそんな物ばかりだ。気持ち悪いだけで、何かに役立つとしても使う気にはならない。

「勇気、こっちは生き物じゃないぞ、何だか分からねえが使えるかもしれんぞ」と、
貴さんが呼んだ。
 その棚には埴輪みたいな物、動物の模型みたいな物、道具らしき物が並んでいる。
「これ、何に使うんだろう?」不思議な形の小道具が沢山ある。
「おっ」一緒に道具を見ていた貴さんが声をあげた。
 貴さんが手に取ったのは比較的小型のトンカチみたいな物だった。トンカチの叩く部分の大きさが左右で違う。木製だから釘は打てないかもしれない、飾り物だろうか。
「勇気、『打ち出の小槌』って知ってるか?」と貴さんがそれを手に取り振ってみる。
「何ですかそれ」
「神話で出てくる魔法のトンカチさ、それに似てる」
「魔法のトンカチ?」
「そう、何かを願ってこれを振るとそれが出現するという神話さ」
「へえ、だとするとだれでも『小判』とか願って振るんでしょ」
「やってみようか、『一万円』」と貴さんがニヤケながら叫んで振った。
「……」何も出ない。
「ハハッ」と照れくさそうに貴さんが笑った。
「いや、トンカチだから、振るだけじゃなくて何かを打たないといけないのかも……」と言って、棚を「コンッ」と叩いた。……何も起こらない。
 いいかげん呆れた、オレは他の物を物色することにした。貴さんは飽きずに何度も棚を叩いている。その度に目がチカチカする。何で目に反応が来るんだろう。
「貴さん、次行こうよ」と声を掛けるが、相変わらず棚を叩いている。
「貴さん、なぜかそれを叩くと目がチカチカするんだけど、止めてくれない」と苦情を言った。
「……」返事がない。
 オレは大きなハサミみたいな物を見ていた。「ハサミに見えるけど実際には切れないよな……」なんて思いながら。

「ウワッ」貴さんが大声で叫んだ。見ると「ちょっとこっちに来い」と手招きをしている。
「しょうがねえなぁ」と渋々行った。
「勇気、驚くぞ、見てろ」そう言うと貴さんは腕時計を外して棚に置いた。
「見てろ」と、叫んで貴さんが棚を「コンッ」と打った。
 目が「チカッ」として、秒針が動くのが見えた。
「何?……」
「もう一度見ろ」、「コンッ」
 今度は確かに見た、秒針が戻ったんだ。
「エーッ……」、言葉が出ない。
「貴さん、これ、時間が戻ったってこと?」
「そうだ……」
「このトンカチを打つと、一瞬だけど時間が戻るんだ」、「ウンウン」と貴さんが自分で納得している。
 分かった、あの目が「チカチカ」するのは時間が戻って場面が変わったってことだったのか……。
「叩き方によるけど1~2秒戻る」
「ハハハ……」貴さんが笑い出した。満面の笑みだ。
「勇気、これ、すごい武器になるぞ」
「武器って?」
「考えて見ろ、例えばオレが勇気を殴ろうとして、構えて拳を振り出した瞬間、これを「コンッ」、と打つと1秒前に戻れる。そしたら、ちょっと姿勢を変えればそのパンチは空振りになるだろ、使うタイミングを覚えればプロボクサーと戦っても勝てるぞ」
「そうか、それは相手が銃でも使える訳だね、狙った相手が瞬間移動したみたいになるのか……」
「ハハハ、そうだ、とにかく、これさえあれば米軍と戦えるぞ、あと、問題は、この夢が覚めたとき、トンカチも消えないことだけだ」
「貴さん、寝よう、でも寝れるかな……」オレは目をつぶった。無理にでも寝るんだと決めて。

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