▶トランプの「大きく美しい法案」の中身(高22期 高橋克己)

トランプ大統領が「大きく美しい法案」と呼ぶ予算案が5月22日、1票の僅差で下院を通過し、上院に送られた。政権は7月4日を目途に上院での承認を目指す。ところが、5月末まで政府効率化省(DOGE)を率いる「特別政府職員」として、130日間にわたりトランプと蜜月だったイーロン・マスクが、この法案を「不快で忌まわしい」と酷評した。
折角、DOGEが支出削減に取り組んだのに、大盤振る舞いが財政赤字の拡大を招くという訳だ。が、3日の『Axios』は、法案に「テスラ」が影響を受けるEV車税額控除を含むグリーンエネルギー補助金削減が含まれることや、マスクが求めていた「スターリンク」の全国航空管制への利用に連邦航空局(FAA)が、利益相反懸念と技術的理由から難色を示したことがあると報じていた。
そこで本稿では、「連邦下院歳入委員会(「Ways and Means Committee」)」のサイトにある「大きく美しい法案」の減税に関する要点、および「ホワイトハウス」の「50 Wins in the One Big Beautiful Bill」と題されたサイトのポイント項目を、少々長いが滅多に見る機会がないと思うので、紹介してみたい。
■「連邦下院歳入委員会」のサイト
追加減税の効果
・時間外労働の労働者への減税:40億ドル
・チップ制労働者への減税:124億ドル
・高齢者向けの減税:72億ドル
・製造業による経済成長:284億ドル
・機会ゾーンへの新たな投資:100億ドル以上
・2人の子供がいる家庭の手取り収入増加:13,000ドル
・米国の雇用は救われる:6百万人
・家族は2,500ドルの増額された児童税額控除を受ける:4千万家庭
・相続税の引き上げから救われた家族経営農家:2百万戸
アメリカの家族と労働者を再び繁栄させる
・17年のトランプ減税を恒久化し、平均的な納税者への22%の増税を回避
・平均的家庭で9週間分の食料品に相当する1,700ドルの手取り増加
・子供2 人の中間所得世帯の実質年間手取りが約 4,000 ~ 5,000 ドル増加
・労働者1人当たりの年間実質賃金を2,100ドルから3,300ドル引上げ
・チップ、残業代、自動車ローン利子への課税免除と高齢者に対する追加の減税
・4,000 万以上の家族を対象に児童税額控除の倍増
・全納税者の 91 パーセントに対する保証控除の維持および倍増
・教育貯蓄口座を拡大し、米国人の家族や学生がK-12 教材から高等教育の職業資格の取得までニーズに合った教育の選択を可能に
・育児へのアクセス拡大と有給休暇の税額控除恒久化により働く家族を支援
・健康貯蓄口座を拡大し、健康保険オプションの選択肢と柔軟性を高める
・貯蓄口座を新規開設し、出生時の子供たちの経済的安定を築く
アメリカの田舎とメインストリートを再び成長させよう
・中小企業控除を23%に拡大・恒久化し、メインストリートの中小企業に100万人以上の新規雇用を創出し、7,500億ドルの経済成長をもたらす
・米国研究開発奨励金と利息費用控除を更新し、新工場、既存工場の改修、その他生産設備の100%即時費用計上(即時一括償却)を認め、米国における新規生産工場の拡大や成長事業を支援
・Venmo、PayPal、および600ドルを超えるギグ取引をIRSに報告することを義務付けるギグワーカー規則を廃止し、民主党によるギグエコノミーへの攻撃を阻止
・1099-MISC のしきい値を 2,000 ドルに引き上げ、中小企業と労働者の書類作成負担を軽減
・200 万の家族経営農場に対する相続税免除倍増し、恒久化
・今後 10 年間で 1,000 億ドル超の新規投資を促進すべく、オポチュニティゾーンプログラムを更新し、農村部の困窮コミュニティを強化
・短期実質国内総生産(GDP)で3.3~3.8%、長期実質GDPで2.6~3.2%の上昇を推定
・米国の製造業者による2,840億ドルの新たな経済成長
・米国の労働者に600万人の雇用を確保
アメリカを再び勝利に導く
・大企業やその他の免税団体で運営されている、意識の高いエリート大学に責任を負わせ、税法を通じて提供される寛大な利益のこれ以上の乱用を阻止
・大学基金税を増額し、多額の基金には法人税率を課す
・従業員にヘッジファンド並みの巨額給料を払っている大規模非営利団体への税金を増額
・バイデン政権下で富裕層、大企業、中国に対して実施された5,000億ドルの減税措置と特別利益団体への優遇措置を廃止
・億万長者のスポーツチームオーナーに対する特別利益税控除を廃止
・税額控除や控除を申請する個人に社会保障番号を義務付け、オバマケアの保険料税額控除やメディケアの不法移民の資格を廃止し、不法移民から米国外への送金に新たな手数料を適用することで、納税者の利益が不法移民に渡ることを防止
■「ホワイトハウス」のサイト
・減税は米国史上最大。米国民の懐に5,000ドルの余裕が生まれ、税額は2桁減となる。年収3万ドルから8万ドルの米国人には約15%の減税
・2017年のトランプ減税を恒久化。法案が可決されなければ米国民は史上最大の増税を経験
・米国人の手取り収入は最大13,300ドル、賃金は最大11,600ドル増加
・1.6 兆ドルの義務的節約により30 年ぶりの大規模な財政赤字削減を実現
・チップと残業への課税を廃止。高齢者に対する歴史的な減税措
・国境の壁の完成。701マイルの一次壁、900マイルの河川防壁、629マイルの二次防壁、そして141マイルの車両・歩行者用防壁を建設
・史上最大規模の国境警備投資により、最前線で働く国境警備隊とICE(関税執行局)職員の能力を強化。年間少なくとも100万人の不法移民を拘留・強制送還するために、ICE職員1万人、税関職員5,000人、国境警備隊員3,000人を新たに雇用
・児童税額控除を1世帯あたり2,500ドルに増額
・真に必要とする米国人のためにメディケイドを守る。140万人の不法移民への給付を停止
・納税者負担の給付を受けている健常者の米国人に対し、就労要件を課す
・数千億ドル規模のグリーン・ニュー・スカム税額控除の廃止。中国への税額控除の流入が即時に停止され、納税者は毎年5,000億ドル以上を節約
・過激な環境活動家らが米国のエネルギー基準を設定することを可能にしたEV義務化を覆す
・バイデン大統領によるアメリカのエネルギー戦争は終結。連邦政府の土地と水域を石油、ガス、石炭、地熱、鉱物資源のリースを開放し、米国のエネルギー優位性を解放
・許可手続きの簡素化で、米国は再び建設を再開
・エネルギー安全保障を守るために戦略石油備蓄を補充
・民主党の「インフレ抑制法」に含まれるあらゆる「グリーン」企業福祉補助金を廃止
・不法移民の税額控除や外国への税金送金を阻止
・セクション 199A 控除を 23% に引き上げて中小企業を支援
・米国内で製造する企業に減税措置を付与。米国製自動車を購入する米人のローン利子を全額控除
・新生児のためのトランプ貯蓄口座を創設
・勤勉な米国人家族の育児へのアクセスを拡大
・米国沿岸警備隊予算の歴史的な増額により、違法薬物や移民の流入を阻止し、北極圏における主権を守り、国家安全保障を促進する
・国内事業の拡大を目的とした新工場建設を支援。100%即時費用計上と利子控除を復活させ、中小企業控除を増額し、設備・機械設備の100%即時費用計上(即時償却)を規定
・農家、生産者、牧場主が海外市場で競争力を持ち、製品を販売するのを支援。米国の農家が液体燃料生産市場において外国からの輸入品に締め出されないよう確保する
・大規模大学への基金税を増額することで、目覚めたエリート主義の大学に責任を負わる
・バイデン大統領の違法で不公平な学生ローン救済策を取り消す
・納税者の資金による性転換手術に終止符を打つ。前政権下で義務付けられた「性転換」手術をメディケイドでカバーする規定を廃止し、納税者の資金による子供たちの化学的去勢と切断を終わらせる
・ゴールデンドームに資金提供し、米国の防衛力を根本から改革して脅威から国土を守る
・米海軍の艦隊能力を強化する。米国の造船業と海事産業基盤の活性化に数十億ドルの資金を提供
・航空管制を近代化し、安全で効率的に飛行できるシステムを全面的に見直す
・SNAP給付を強化*。州の給付金運営割合を高めることでコストを抑制し、就労要件に関する過度に広範な抜け穴を塞ぐ(*低所得者へのフードスタンプ制度)
・メディケイド制度の健全性とコスト抑制に関する規定を導入し、将来世代のために制度を強化する。
・死亡者のプログラムからの除外、遡及適用を加入前の3か月から1か月に制限
・銃器の消音器に対する税金と登録要件を撤廃し、消音器を国家銃器法から排除
・農家、生産者、牧場主に重要な災害復旧資金を提供
・米軍再建に資金を提供
・軍人らの生活の質を向上するための90億ドル以上、米国の軍需品生産を強化するための200億ドル以上、核兵器の近代化のための120億ドル以上が含まれる
・健康貯蓄口座を拡大し、米国人に資金の使い方に関してより大きな選択肢と柔軟性を与える
・今後4年間、最前線で働く国境警備隊とICE職員に毎年1万ドルのボーナスを支給
・家族や学生が自分のニーズに最も合った教育を選択できる奨学金制度を奨励
・ギグエコノミーに対する民主党の非常識な攻撃を撤廃し、Venmo、PayPal、その他の600ドルを超えるギグ取引をIRSに報告する要件を廃止
・連邦学生ローン制度を改革・合理化し、授業料の引き下げと返済計画の簡素化を目指す
・学生が借りられる金額に合理的な上限を設ける
・連邦政府の学生ローンに関する学生と納税者への説明責任を強化
・大学に対し、債務不履行となった連邦政府の学生ローンについて政府への財政的説明責任を負わせるための「リスクを負う」義務を課す
・ペルグラント制度を改革し、真に経済的支援を必要とする学生を優先しつつ、修了率の向上を図る
・伝統的な4年制大学ではなく専門職の取得を希望する米国人支援のため、短期かつ質の高い労働力育成プログラムに助成金を充当
・連邦政府所有地における木材販売の奨励。これは木材生産量の増加と森林管理の改善を意味し、木材の回復力の向上と将来の山火事対策費用の数十億ドルの節約につながる
・地方のブロードバンドを強化し、AIやその他の新興技術におけるアメリカの技術的優位性を確保するために、拡張スペクトルMHzの販売を認可する
・不法移民が申請時に支払う恒久的な手数料を創設し、米国の納税者がこれらの費用を負担するのを防ぐ。この手数料で審査費用、移民手続き、執行措置の資金として770億ドル以上を調達する
・家族経営農家を保護する。高率な相続税が200万の家族経営農家に打撃を与えるのを防ぎ、免税額が半減するのを防ぎ、農家への税金を100億ドル以上削減する
・既存の医療提供者税を凍結し、新たな医療提供者税を禁止することで、メディケイドにおける不当な資金調達慣行を終わらせる。これにより、州が納税者の負担を犠牲にして、州のメディケイドプログラムにおける連邦政府の費用負担を不当に増加させることを防ぐ
・消費者金融保護局(CFPB)の統制。 この機関は長年、官僚機構の意識の高い武器として機能してきた
・州の柔軟性を制限しながらコストと行政負担を増大させる
・バイデン政権時代の有害な規制の撤廃。介護施設における連邦政府による人員配置義務などの煩わしい規制は、人手不足に悩まされている地域で、施設閉鎖、ケアへのアクセス減少、そしてコストの増大を招いている
■まとめ
この法案は、第1次トランプ政権下の17年に実施し、本年末に期限を迎えるトランプ減税を恒久化することで、勤労世帯と中小企業に追加の減税を提供し、米国における投資と製造業に報奨を与え、富裕層、中国、不法移民への減税措置を終わらせつつ、目覚めたエリート層の責任を追及するとしている。
これらにより、中小企業・製造業者・農家に、新たな投資と雇用創出を通じたトランプ2.0の経済ブームを推進する確実性と自信を与える一方、家庭と労働者に対しては、低い税率、より大規模な児童税額控除、勤勉な米国民に対する税制優遇措置(高齢者に対する減税、チップへの課税免除、残業代への課税免除、米国製車のローン金利への課税免除)を実施する目論見だ。
マスクのテスラ社に影響を与える事項は、太字にした「過激な環境活動家らが米国のエネルギー基準を設定することを可能にしたEV義務化を覆す」である。これも太字にした「グリーン・ニュー・スカム」は、ニューサム・カリフォルニア州知事の気候変動原理主義の揶揄である。トランプはニューサムの山火事対策を難じたが、法案にはその対策も盛り込まれている。
5月末まで民主党から目の敵にされていたマスクは、法案を酷評したことで民主党から「奇妙な尊敬を受け」、上下両院のトップ、チャックシューマーとハキーム・ジェフリーズが「大きな美しい法案は中流階級に対する大きな美しい裏切り」であり、「イーロン・マスクに同意する」と声明している(5日の『FoxNews』ネット番組)。
この番組で共和党のジョン・スーン上院院内総務は、法案の批判者が17年のトランプ減税と雇用増加による経済成長とそれによる歳入増加を過小評価したとして、こう述べた。
“米国民と中小企業の税金を減らすと、より多くの投資をしようというインセンティブが生まれます。より多くの人々に投資すれば、より高給の仕事が生まれ、人々はお金を稼ぎ、実現していく。彼らはより多くの税金を払っています。つまり税収が上がるということです。”
“この法案は、政策のすべてが実施されたときに何が起こるかを正確に反映していない多くの分析が行われています。法案の支出削減は史上最大で、これについては疑いの余地がありません。これによって莫大な節約が実現される予定であり、私たちは上院でそれを強化したいと考えています。”
減税を頑なに拒む我が国の政権の姿勢を見るにつけ、これとは対照的に、スーン上院院内総務がいうところの、大幅減税によって喚起される国民の活力に期待して、経済成長を目指すトランプの「大きく美しい法案」の成立を、つい祈ってしまう。搾り取られるばかりでは、気持ちが萎えるというものだ。
なお、マスクの純資産は、トランプを非難した5日一日だけで255億ドル(約3兆7000億円)減少し、3890億ドル(約55兆8000億円)となった。これはトランプの純資産55億ドル(約7900億円)の4.6倍に当たるそうだが、マスクに同情する気にはならない。 おわり
「イーロン・マスクに同情する気にはならない」は、まったくその通りです。しかし、トランプを支持するわけにもまったくいきません。
トランプの1期目はひどかったけど、2期目は目を覆いたくなるほどです。他国に対する無礼な対応委や、自国中心主義いや自分中心主義と言ってもよいかもしれません。
ポリティカル・コレクトネスはどこに行ったんでしょうか?
トランプが集会で演説している後ろで、赤い帽子をかぶった支持者が騒いでいるのを見ると、私が知っていた米国人とは思えません。民主主義の国とは別質になったと思います。
ただ現実ですから、目をそらせるわけには行かない。いやな世の中だと感じます。