▶電脳小話「デジタル進化論」 第二話 どうしてコンピュータができたのか?(高25期 廣瀬隆夫)

前回はデジタルとは何か?をたどり、本来アナログで存在しているものを数値化してコンピューターで扱いやすくしたものがデジタルだというお話をしました。それでは、今回は、そのコンピューターができるきっかけは何だったのかをたどってみます。

■ 計算する道具をたどってみると・・・
全てはモノを数えることから始まりました。ロビンソン・クルーソーは無人島に流れ着いたとき、歴を作るために木の柱にナイフで刻みを付けて過ごした日を数えました。言葉の中にローマ人が石を使って数えていた痕跡が残っています。計算機calculatorの語源はラテン語のcalc「石」だそうです。人類は昔からモノを数えるために様々な工夫をしていました。

石で数えるローマ人

日本で昔から使われているソロバンは、携帯用の計算機として中国の後漢時代に作られたものです。今は、パソコンの生産は中国が世界一ですが、昔から数えることに関わりがあったのですね。

ソロバン

歯車を使った手廻し式のタイガー計算器が1923(大正12)年に大本寅次郎氏により商品化されました。後に機械式の手回し計算機を開発していたビジコン社が、今でもパソコンの心臓部に使われているコンピューターの原型のワンチップコンピューター8080の開発につながっていきます。

タイガー計算機

私が大学のころは、理系の学生は計算尺という文房具を使っていました。ソロバンのように玉をはじいて計算するのではなく、対数目盛の物差しをカーソルに合わせると瞬時に計算結果を読み取れるというアナログ計算機でした。

計算尺

スマホは、ピザの注文もできるし、電車に乗ることも、音楽を聞くことも、おしゃべりをすることも、ビデオ会議をすることもできますが、スマホがこのような計算機の仲間だと言われても信じがたいと思います。生き物の系統樹をたどりますとバクテリアまで遡れますが、みんなが便利に使っているスマホのルーツをたどると、間違いなく計算機に行き着くのです。

スマホのルーツをタドッた系統樹

■ 戦争の落し子
今使われているコンピューターの開発の発端は、第二次世界大戦までさかのぼることができます。戦争は、悲惨な結果しか残しませんが、皮肉なことに私たちの生活の役に立っている道具には、軍事技術を起源とするものがたくさんあります。コンピューターもその一つです。

数学者のユダヤ系ドイツ人のフォン・ノイマンは、ナチスの弾圧を逃れてアメリカに亡命しました。そこでマンハッタン計画に加わり中心的な役割りを果たします。爆弾は雨や風の影響を受けるので、正確に目的地に落とためには複雑な方程式を解く必要がありました。手計算では限界があり、高性能な計算機が必要でした。コンピューターの基礎理論はアラン・チューリングが考えたものですが、ノイマンは実際に動くコンピュータの理論を開発しました。

ノイマンが考えた理論は、プログラム内蔵方式とも言われ、あらかじめ記憶装置に組んであるプログラム(命令)を順番に実行して動くタイプのものでした。今までの計算機は手動でしか動きませんでしたが、ノイマンが考えた計算機は人が手を下さなくても自動で計算処理ができました。これ以降プログラムを内蔵して高度な数学的計算ができる計算機、計算する人という意味のコンピューターと呼ぶようになりました。私たちが使っているパソコンやスマホもノイマン型のコンピューターです。現時点でも、ノイマンの方式に代わるコンピューターは実用化されていません。

京都の西陣織の機械をご覧になった方はご存知かと思いますが、西陣織の布を織るために細長い紋紙(もんがみ)という厚紙が使われています。その厚紙に空けられた穴の通りに美しい模様が織り上げられます。紋紙を交換すると違った模様の西陣織が織りあがります。ノイマン式のコンピューターは、これと良く似た原理で動いているのです。

■ 何で2進数?
ソロバンもタイガー計算器も10進数が使われていました。実は、最初のコンピューターとして有名なENIACも10進数が使われていたのです。計算に10進数が使われた理由は、子どもが10本の指を折って数えている姿を見ると容易に想像ができます。人間には指が10本あったからです。デジタル(digital)の語源はラテン語で「指」を表すDIGITです。

繰り上がったら桁が上がるというしくみがあれば、コンピューターは何進数でも良かったのですが効率化を突き詰めていくうちに2進数に行きついたのです。デカルトは、方法序説で複雑な問題は細かい部分に分けて解け、と言いましたが、これ以上分けられない2進数を使うことでシンプルな構造の今のコンピューターができたのです。

2進数は、白か黒かの2つの状態しかありません。今の世の中、2つの意見が出た時、賛成か、反対か、のどちらかに偏る傾向があります。本来は、ここは賛成だがちょっと違うとか、反対意見の中にも良い点がある、とか、いろいろな選択肢があるのですが・・・。これは、デジタルという白黒はっきりしないと気が済まないという考え方の特徴かもしれませんね。

電流が流れている状態を1、切れている状態を0に対応させることで2進数の計算ができます。オンオフのスイッチの機能があればコンピューターができるということです。

スイッチ

最初にコンピューターに採用されたのはリレーでした。モーターなどの装置の電気の制御ができるので継電器とも言われています。今でも鉄道や変電所などの電力関係の設備や電話の交換機など様々な電気回路に使われていました。コイルに電流を流すと電磁石が鉄の接点を引っ張りスイッチを入れるという単純なメカです。しかし、リレーは動作が遅く、接点が錆びて動作不良になることが多く保守にコストがかかりました。

リレー

次に使われたのが1880年代に、トーマスエジソンが発明した真空管でした。基本的な構造は白熱電球と同じで、リレーのように可動部がなく電子的にスイッチの制御ができましたので物理的な故障は減りましたが、長い間通電していると熱を持ったりフィラメントが切れるという欠点がありました。最初のコンピューターは、この真空管を数万個も使った丸ビルくらいの大きさの巨大な建造物でした。

真空管

■ まとめ
石を数えることから始まって人類の英知を集めてついにコンピューターが出来上がりました。その後、しばらくは、大型コンピュータの時代が続くことになります。次回は、メインフレームと呼ばれるまでになった大型コンピューターのお話をします。

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