▶「栓」が馬鹿になった話(高22期 高橋 克己)

表題に「馬鹿になった」と書くか、それとも「壊れた」とするか迷った。結局こうしたのは「壊れた」だと、どう壊れたのか判りにくいかな、と思ったからだ。他方、「馬鹿になった」ならば、「動かなくなった」や「動くけど空回りする」など、「本来の目的を果たし過ぎて損耗した」とのイメージが湧く。
住んで40年も経つと、新築マンションだった我が家もさすがにあちこち不具合だらけだ。特に使用頻度の高い水回りはガタが来易いようで、風呂場は床と壁を張り替えたし、今回「栓」が「馬鹿」になった洗面台の蛇口も、かなり前に「馬鹿」になって取り替えた記憶がある。シャワーヘッドも最近変えた。
耐用年数表には鉄筋コンクリート住宅は47年、家庭用の金属製工具・器具は15年、表にはないが蛇口は10年と業者は言う。我が家と我々夫婦の余命が微妙だが、諸々良く持っている方だろう。が、家内が最近、システムキッチンが低くて腰や首が痛いから買い換えたいと。背は大分縮んだ様なのに怖い。
「記憶がある」などと無責任に書くのは、14年までの20年間単身赴任だったから。リタイヤして、日々風呂場や洗面台を使うようになり、「そういえば以前と違ってる」と気が付いたのである。数年前にマンション役員のお鉢が回ってきてボヤいたら、「私は2度やったし、トイレも壊れたことがある」と家内にドヤされた。
さて、その洗面台、昨夜寝しなに歯を磨いてから「栓」をして水を溜め、顔を石鹸で洗って「栓」を上下させる蛇口後方のノブを押し下げた。が、いつものように「栓」が上がらない。何度かノブを上下させるが抵抗がなくまさに「暖簾に腕押し」で、「栓」も水もそのままなのである。
慌てて「栓」と「口金」の隙間に爪を立ててみたものの、爪が立つようでは「栓」にはならないなあ、などと焦る。家内は既に休んでいたが、明日の朝にきっとまたドヤされると思うといっそう狼狽するが、まあ仕方がない。朝になったら修理屋さんを呼ぶことにして寝てしまった。
朝は台所の流しで事を済ませ、修理屋の心当たりを家内に尋ねると、「管理人さんに聞いてみたら」と。なるほどと1階に降りて管理人に聞くと、管理会社のチラシをくれる。が、0120・・に何度かけても「ただいま大変混んでいます。お掛け直しになるか・・」とテープが言う。これでは架け直す気にならない。
部屋に戻って「金沢区・水回り・修理」でググる。key word選びにはコツがあり、「水道」などと入れると水道工事屋が出てきてしまう。何件かあるが「ボッタくり注意」などの文字も踊り少し焦る。規模の小さそうな業者に架けたのは、千葉の葬儀屋のことがあったから。大手は横柄で高いことが多いが、私が選んだ先は、社長自ら霊柩車を運転して現れた。
オペレーターに住所氏名などを告げ、しばし作業員の来訪を待つ。約束の30分後に到来したのは作業者からの電話だった。「前の工事が長引いて12時頃になりますが、大丈夫ですか」というので。「OKですよ。どうかよろしく」と私。斯くて状況診断から作業が始まった。
後ろに座り込んで作業振りを見学したのは、排水管の構造に興味があったこともあるが、実は「ボッタくり対策」。何万円も請求された日には堪らないので、どんな作業かをしっかり見張った。が、直に電話が鳴り「今仕事中だからまだ食べてない」と答えている。きっとオペレーターは奥さんなのだろう。
40代後半と思しき彼に、「話しかけたら邪魔か?」と私。「大丈夫です」と彼。以下、私「競争激しいの?」、彼「大手がいるので大変です。神奈川と東京を回ってるんです」、私「そりゃ大変だ、クラシアンとか?」、彼「そうです」、私「サイトに24時間受付とあったが、葬儀屋と同じだね」、彼「そうなんです。トイレなんかは困るでしょう」。
そこへ家内が来て、「配管ごと取り替えられますか?」と宣う。「大事だし5~6万掛かりますよ」と彼、「そんな良心的なこと言ってたら商売にならんよ」と私。結局、配管の中の「栓」を上下させるジョイント部が摩耗していたので、私が応急処置で、写真の様に「栓」が閉まらないように工夫して作業終了。
何故って「水を溜めて使うのは貴方だけだから」と家内が言うので。彼には「ということなので、先々取り換える時には連絡するね」と伝え、「代金、お幾ら?」と聞くと「結構です」と。「じゃあこれで昼めしでも」と北里柴三郎を1枚渡した次第。おそらくこのまま使い続けることになるだろう。 おわり


