▶レバニラ炒め定食の研究
私は、レバニラ炒め定食が大好物です。中華料理屋さんに行って迷ったら“レバニラ炒め定食”を注文します。ほとんどの街の定食屋さんのメニューにも入っており、隠れた人気料理の一つではないかと思います。四十年以上も私の胃袋を満たしてくれた、この食べ物について調べましたので報告します。(10月3日 高25期 廣瀬隆夫)
■ 私は何でレバニラ炒め定食を食べるようになったのか?
1960年代、まだ、日本がそんなに豊かでなかった時代、街には貸本屋というものがありました。今のレンタルビデオ屋の先駆けのようなものです。普通の民家の一室に本棚が置いてあり、二泊三日で10円くらいのお金で本を借りることができました。本といってもほとんどが漫画本。ハードカバーの装丁がしっかりしたもので、小さな本屋では売っていませんでした。たぶん、高くて買い手が少なかったのだと思います。
その貸本屋で、水木しげる、つげ義春、佐藤まさあき、永島慎二、白土三平、藤子不二雄、手塚治虫、赤塚不二夫などの漫画を借りて読んでいました。まだ戦後を引きずっていた時代で、藤子、手塚、赤塚の作品を除くと暗い内容の漫画が多かった記憶があります。ゲゲゲの鬼太郎の原形の墓場の鬼太郎は、おどろおどろしい不気味な漫画でした。
しばらくすると、冒険王、漫画少年などの月刊の漫画雑誌が出てきました。その後、少年マガジン、少年サンデー、少年キングの週刊漫画雑誌の御三家が出てきて漫画の最盛期となります。漫画が子どもの教育に悪影響があると言われていた時代です。今のスマホも同じ運命を辿るのかもしれないですね。
その中で異彩を放っていたのが、赤塚不二夫です。最初はひみつのアッコちゃん、のような少女向けの漫画を書いていましたが、おそ松くん、で一世を風靡しました。おそ松くんは、六つ子が騒動を起こすギャグ漫画ですが、主人公より、チビ太やイヤミ、デカパン、ハタ坊、ダヨーンおじさん、などの脇役が面白かったです。
その後、モーレツア太郎やレッツラゴンなどのヒットを飛ばしましたが、なんといっても赤塚のギャグ漫画の一つの到達点が天才バカボンでした。少し頭のネジが緩んだバカボンと破天荒なパパ、しっかり者のママ、何でもよく知っている弟のハジメちゃんが繰りなすドタバタ劇でした。主役はバカボンですが、常識外れの何をしでかすか分からないパパのキャラクタの面白さが圧倒していました。
そのバカボンのパパの大好物がレバニラ炒め定食だったのです。私は、この漫画でレバニラ炒めに初めて出会いました。
レバニラ炒めは、天才バカボンに何度も出てきます。
赤塚は、漫画の中で
「レバニラ炒めは、ごちそうなのだ!」
とパパに言わせています。
私は、そんなにうまいものかと思っていました。これを読んだ子どもの頃は定食屋という存在も知らず、レバーもニラもあまり食べたことがなかったのですが、大人になったら、このレバニラ炒めを食べてみたいと思って子ども時代を過ごしました。
大学を卒業してオーディオ用の家電製品の設計を任され、今は巨大なショッピングモールになっていますが、川崎にあった東芝の大きな工場で、温度試験などの製品のテストなどに立ち会っていた時期がありました。昼は近くの定食屋で食べていました。手書きのメニューがベタベタと貼ってあり、夫婦二人でやっている小さな定食屋でした。
初めての店で、メニューの字が読みにくくて迷っていると、隣で油まみれの作業着を着た男の人が肉野菜炒めのようなものをおかずにして、ワッセワッセと白いご飯を口に入れてうまそうに食べていました。美味しそうだったので「それ、ください」と言うと、おかみさんは、「レバニラね」と言って厨房に戻っていきました。出てきたものが初めてお目にかかるバカボンのパパが食べていたレバニラ炒め定食でした。
■ レバニラか、ニラレバかという議論
定食屋さんで注文するときに、レバニラ炒め定食か、ニラレバ炒め定食か迷う時があります。ニラの中にレバーが入っているのか、レバーの中にニラが入っているのか。カレーライスか、ライスカレーかなど食べ物には時々このような些細な論争が持ち上がることがあります。どちらでも良いことですが考えてみたいと思います。
料理の食材はどちらも牛レバーや豚レバーをニラやモヤシ、キクラゲ、ショウガなどと炒め、塩コショウや醤油で味付けしたものです。では同じ料理なのになぜニラレバとレバニラの2つの呼び名が存在するのか。
この料理は、日本ではラーメンやカレーライスと肩を並べる庶民の食べ物ですが、そもそも中国から伝わってきた青椒肉絲や回鍋肉などと同じれっきとした中華料理です。ネットで調べると韮菜炒猪肝(ジウツァイチャオジゥガン)と言うことが分かりました。漢字からニラ(韭菜)とレバー(猪肝)を炒めた料理だと言うことが分かります。こういう時に漢字圏に住んでいてよかったな、と思います。中国人からいろんなものを学んでいるのですから、日本はもっと中国と仲良くしないとダメだと思いますよ。
で、これで明らかなように正式な呼び方は「ニラレバ」です。「ニラレバ」でなく「レバニラ」という言い方を広めたのは、私が最初に出会った「天才バカボン」だと言うことを聞いて驚きました。
バカボンのパパがフランス料理か何かの高級レストランで、金持ちの婦人に招かれて食事をした時に
「レバニラ炒めはないのか?」
と言ったのが始まりと伝えられています。
当時の日本では、ニラレバ炒めというものは、今ほど馴染みがありませんでした。「ニラ」が日本の家庭に普及したのは1960(昭和35)年以降で、それから食卓に出るようになったと言われています。確かに、子どもの頃、レバは食べていましたが、ニラを使った料理を食べた記憶がありません。そこで、レバーの方が馴染みがあったので、ニラとレバーを逆転させてレバニラと言わせたのではないかという説があります。
また、声に出して読んでみると分かるのですが、ニラレバだと「ラ」と「レ」とラ行の音が連続してしまい、日本人にとって発音し難いのです。レバニラの方が発音しやすいためそうなったという説もあります。
天才バカボンは1967(昭和42)年に週刊少年マガジンで連載がスタートし、1971(昭和46)年にはテレビアニメも始まりました。テレビで何度も「レバニラ炒め」という台詞が流され「レバニラ」という言葉を広まったのではないのかとも考えられます。
バカボンのパパは、都の西北、早稲田の隣のバカ田大学を卒業したとされています。「西から登ったおひさまが、東へ沈む。これでいいのだ!」と歌っています。世の中でみんなが当たり前と思っていることに疑問を持ち、反骨の精神があったのではないか。バカボンのパパは、中華料理の韮菜炒猪肝のことを知っていて、敢えてニラとレバをひっくり返して「レバニラ炒め」と呼んだのではないかとも類推できます。赤塚が亡くなってる今となっては知る由もありませんが・・・。
■ レバニラ炒め定食の効用
私は、大きな仕事があるときや風邪をひいて体力が弱っているときにレバニラ炒めを食べます。レバーに豊富に含まれる「ビタミンB1」と、ニラに含まれる成分「アリシン」を一緒に摂取すると「ビタミンB1」の吸収率が高まり疲労回復に効果があるとされています。また、レバーには「ビタミンA」や「鉄分」、「葉酸」なども豊富なので、ニラレバ炒めは栄養価の高い料理なのです。
先ほど紹介した、韮菜炒猪肝(ジウツァイチャオジゥガン)が載っている中国の百度(バイドゥ−)のホームページ(https://baike.baidu.com/item/韭菜炒猪肝)にも、視力低下、血液不足、貧血、遅発性肝不全に効くと出ています。本来、薬膳料理なのかもしれませんね。レバーとニラという視覚的にも元気になりそうだし、便秘の時にこれを食べると通じが良くなります。たくさんの人の前で話をするときなども、これを食べていると落ち着いて話すことが出来るような気がします。レバニラ炒めを食べることは、私にとって、一つのジンクスになっています。
■ いろいろなレバニラ炒め定食
かれこれ、40年くらいレバニラ炒め定食を食べていますが、かなりのバリエーションがあります。味付けは大きく分けて3種類。一番多いのが塩コショウでシンプルに味付けしたもの。次が醤油、もう一つが片栗粉でとろみをつけたものです。四川風に唐辛子を利かせたものもあります。
食材は、ニラとレバともやしがはいったもの、高級なものには、それにキクラゲが入っています。ニラだけのもの、もやしだけのものもあります。ニラの代わりに、ほうれん草が入っているものも食べたことがありましたが少し水っぽくて腹に残りました。ほとんどの定食には、香の物、スープが付いていますが、高級なものには、杏仁豆腐がついているものもあります。以下に、今まで私が食べたレバニラ炒め定食の写真をご紹介します。
味も様々、値段も様々ですが、1000円を超えるようなレバニラ炒めは、庶民の食べ物としては、いただけません。B級グルメでは味と姿形、値段のバランスが重要視されます。このような観点から、今まで食べた定食の中で、横須賀中央にもありますがチェーン店の日高屋のレバニラ炒め定食がベストだと思っています。味も良いですが姿も美しく、10月から消費税が10%になりましたが、値上げせず680円(内税)という値段でガンバっていました。
右下の写真は、横須賀高校の正門の近くにある”㐂よし(きよし)食堂”のレバニラ炒め定食です。横高のラグビー部が良く出入りしていますので、生徒の胃袋を満たすためにキャベツがたくさん入っていてボリュームがありました。中華スープでなく、ワカメが入った味噌汁が付いているのも健康的です。
https://kiongaoka.sakura.ne.jp/blog/2017/08/14/kiyoshi/
これからも、私の胃袋が求める声を聞きながらレバニラ炒め定食探求の旅は続きます。
こんな研究されていらしたなんて知りませんでした (=^_^=)
フェイスブックで時々出てくるような気はしていましたが…
とっても楽しいです!
研究という大げさなものではないのですが、今まで撮っていた写真を集めましたらこんなにありました。食べ物について、いろいろ調べるのは楽しいですね。鰻の蒲焼きの研究に続いて2作目です。
http://www.kiongaoka.sakura.ne.jp/blog/2017/08/10/unagi/
京急の電車の中で書いています。
そうそう鰻の蒲焼もありましたね。
中央の鰻屋さんに通っていた鰻好きの友人が、お店が堀ノ内駅前に移転してすぐ閉店してしまって、美味しいお店を探していました。
金沢八景〜文庫の「隅田川」の前を通るとすご〜くいい匂いがしていたのを思い出し、廣瀬さんの記事にもあったので教えたら、さっそく行ったみたいで、たいへん喜んでおりました。