▶「ニボス NIVOSE」(高22期 加藤 麻貴子)

今から30年程前のことです。フランスの艦船「ニボス」が横須賀に寄港しました。当時私がボランティア登録していた横須賀市の国際交流課(当時)の依頼で、ニボスの乗組員と自衛官とのコミュニケーションのお手伝いをすることになりました。それまでフランス人に会ったこともありませんでしたし、フランス語を勉強したこともありません。ただ、家事をしながらカセットデッキから流れるフランス語の音声に浸っていただけでした。でもフランス人とフランス語で話してみたいという欲求に抗えませんでした。通訳はしなくてもよいということで、不安はありましたがその依頼を引き受けることにしました。

1日目、「熊野」という名のホスト自衛艦ではセレモニーだけ行い、レセプションは海自の建物内での開催でした。初日だけの依頼が翌日も伺うことになりました。2日目はフランス側の招待です。セレモニーからレセプションとなり、リビングで乾杯、ダイニングで食事。木材をふんだんに使った洗練された内装で、エスニック調の調度品などがセンス良く配置されていました。こちらはアルコールも許されており、バーにはビールやワインが並んでおりました。「熊野」はアルコールも木材も使用禁止ということで殺風景でしたので驚きました。

さて、肝心のフランス語ですが艦長のスピーチも凡そ理解でき、食事の時の会話にもさほど困りませんでした。私の前に座った方は士官のクッションさんでした。とても似た発音に豚を意味する「コッション」という語があり、私はその音にとても馴染んでいたので、クッションさんと呼ぶ時につい「コッション」と言ってしまいその度に彼は大笑いして直したのです。食事中の会話なので難しい話はなく日常会話なので、笑顔で話していれば問題はありません。また、操舵室にも案内してくれました。整頓され磨き抜かれた機械室を抜け操舵室に着くと右舷左舷など説明をしてくれ、大体理解できたことに私は感激してしまいました。という訳で市からの依頼の「コミュニケーションの手伝い」という役目は果たせたように思いました。

これが私のボランティア活動の始まりでした。

クッション士官との会話で「この艦船の名前の『ニボス』はフランス語の古語で12月という意味です」という話がありました。はてさて耳だけで得たフランス語、その聞き取りは正しかったのでしょうか?

最近ふとこのことを思い出し、Wikipediaで調べてみると共和暦(フランス革命暦)の中に「ニボス」を見つけました。「ニボス」とは「Nivose 雪月」、12月21日頃から1月20日頃を指します。

共和暦の紀元(共和暦元年元日)は王政が廃止された翌日のグレゴリオ暦1792年9月22日(秋分)です。そして一年は各月平等の30日の12ヵ月で残りの5日は休日としました。七曜は廃止し、一週間は10日、一日は10時間、一時間は100分、一分は100秒と全て十進法にしたのです。いきなりこの暦を押し付けられて民衆はさぞかし困ったと思います。週の名前は一曜日から十曜日と十進法で数えられています。また365日は日ごとに名前も付けられています。五曜日は動物の名前、十曜日は農機具の名前、その他の曜日は植物の名前が付けられています。私が言った「コッションcochon」は霜月5日にあります。そして「Nivose」雪月だけが鉱物の名前です。

ファーブル・デグランティーヌという詩人が創案したこの暦には素晴らしい一面があります。秋は葡萄月Vendemiaire(グレゴリオ歴9月22日から10月21日まで)霧月Brumaire、霜月Frimaireと続き、冬は雪月 Nivoseから始まり、雨月Pluviose、風月Ventose、春は芽月 Germinal、花月Floreal、牧月Prairial、夏は収穫月Messidor、熱月Termidor、そして実月Frutidorで終わります。季節感を盛り込んだ月の名は韻も踏んでおり発音の響きも美しく、農業国のフランスを映した名前だと思います。

しかしこの暦はこれまでの生活習慣と大きく異なり不評で「10 Nivose, an XIV(フランス革命暦14年雪月10日)」の翌日からグレゴリオ暦(1806年1月1日)に戻りました。

尚、フランス語表記は若干正確でないものもありますがご容赦ください。

    ▶「ニボス NIVOSE」(高22期 加藤 麻貴子)” に対して7件のコメントがあります。

    1. 高22期 伴野 明 より:

      高22期 伴野です。
      「ニボス」? 一体何のこと? と記事を拝見しました。
      自衛官とのコミュニケーション、とありますから軍艦なんでしょうか。

      「フランス語が好き」なのは分かりますが、記事の内容からすると「コミュニケーションの手伝い」ができるなんて信じられません。
      でも、「好きだから何とかしちゃう」という意気込みみたいなもの、なのかも知れません。
      そういうの、良いですね。

      「共和暦」の事は知りませんでした。実用性はともかく、気持ち的には理解出来ます。
      「グレゴリオ暦」が良いとは、ちっとも思えません。全然夢が無いですから。

      1. 加藤麻貴子 高22期 より:

        フランスの軍艦でした。若気の至りというか、何とかなると思えたのでしょう。今思うと冷や汗ものです。
        私のフランス語は耳から入っているので聞き取りと発音はかなり大丈夫。多少意味が分からない点があっても想像力とシチュエーションで理解します。そのほうが文字や文法から始めるよりも自然に話せるようになります。それに食事の時の話は「美味しい」とか「きれい」など簡単な言葉なので通訳もできます。スピーチは派遣の通訳がしてくれましたが、仏語の音を英語に置き換えて半分くらいは理解もできました。ニボスの話も「ニボス セラ ディセブレ アンシャン フランセ」のような音でした。ディセブレはDecember, アンシャンはancientと英語ではなります。
        月の名前だけは共和暦が良いと思います。

    2. 松原隆文 より:

      話が逸れて恐縮ですが、暦というのは大問題でしてね。信長が暗殺されたのは、朝廷に尾張暦を使うよう指示したからだという説さえ有ります。年号と暦は朝廷の専権で、いかなる権力者たりともこれに口を挟めなかったのですね。危機感を持った上級公家が明智光秀をそそのかした、というのですね。これかなり説得力がありますね。

      1. 加藤麻貴子 高22期 より:

        改暦は大問題です。日本も戦前までは旧暦(月の暦)で今は太陽暦ですが、私の祖母は太陽暦を旧暦に直して季節を理解していました。ちなみにアジアでは太陰暦のほうが主流のようです。タイでは仏陀の没年を基準とする仏暦を使っています。

        1. 松原隆文 より:

          イスラム教国はイスラム歴を使用しているんですね。確か622年が紀元元年ですね。
          グレゴリウス暦は16世紀にはじまったものでそんなに歴史長くないんですよね。
          ジュライ(ジュリアスシーザー)、オーガスト(アウグスツス)等、カエサル暦の名残でしょうか?
          フライデー(フライテル)、チューズデイ(トゥール)などはゲルマンの神話の神々ですね。暦はその地域文明の証ですね。

    3. 廣瀬隆夫 より:

      十進法の暦があったのですね。計算しやすいですね。

      1. 加藤麻貴子 高22期 より:

        いきなり10進法は案外使いにくかったのかもしれません。時間までも10進法にしたのは不評だったようです。でも同時代に長さを測るメートルも10進法に改定されたそうですが、こちらは今でも使っています。

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