街の本屋さんの危機とロングテールの法則

昭和25年当時の平阪書房(平阪書房ホームページより)

横須賀中央駅でバスを降りて平坂の中腹にあった平坂書房は、横高生にとって思い出に残る書店ではないかと思います。1階が一般書籍、2階が参考書売り場だったと思います。高校に入って最初に、ここで買った文庫がトルストイの人生論だったと記憶しています。

坂の上の平坂書房がなくなってモアーズに入ってしまったのを寂しく思っていました。今年になって行きましたら文教堂書店に名前が変わっていました。北久里浜や武山の平坂書房もなくなったというニュースも入ってきました。ホームページによりますと馬堀店だけが残っているようです。私の家の近くの本屋さんも次々となくなり、時間つぶしに、ぶらりと入れるような本屋さんがほとんどなくなってしまいました。残ったのは、有隣堂や文教堂書店などの大型書店やブックオフなどの古本屋だけになってしまいました。

若者の活字離れが叫ばれて久しいですが、統計を見ても、全国で1999年には22,296 店あった書店が、2017年には12,526 店に減っています。この19年間で半分近くになってしまったんですね。(日本著者販促センター 書店数の推移)

これは、日本人が本を読まなくなったということだけでなく、アマゾンのようなネット書店に客を奪われているのが主な原因だと、私は考えています。

アマゾンのサイトに行って、検索窓から欲しい本を入れて検索すると、”こんなマイナーな本もあるのか”と思うほど、街の本屋さんには絶対に置いていないようなマニアックな本もしっかり置いてあります。こんな芸当が出来るのは、ある法則がはたらいているからです。

横軸の左の方によく売れる本を、縦軸に販売冊数をプロットしたグラフを作ると尻尾の長い恐竜のようなグラフになります。街の本屋さんでは売れない本は店舗に置かずに切り捨てますが、ネット書店では長く伸びた尻尾の部分の売れない商品も取り扱うことができるというのです。展示の場所が限られている街の本屋さんは、店舗に置く本に限りがありますので、よく売れるベストセラーは、書店の書棚のお客さんがいちばん良く見えるところに配置し、あまり売れない本は店頭には置かずに取り寄せるという運用にせざるを得ないのです。

しかし、アマゾンのようなネット書店は、店舗がありませんので、売れる本も売れない本も同等に扱うことができます。ロングテールの尻尾の先のマニアックな売れない本も検索でヒットさせれば売ることができるのです。これをロングテールの法則と呼んでいます。ロングテールの法則は、2006年に米国のWired誌の記事で同紙編集長であったクリス・アンダーソンによって提唱されたものです。

これが、ネット書店の大きな強みです。店舗がありませんので、土地や建物の賃貸料がかかりません。そこで働く従業員も必要ありません。アマゾンなどは、地価の安い場所に他の商品を扱う巨大な倉庫がたくさんありますので、そこに本を在庫しておけば良いのです。ネットで注文を受けたら配送業者にまかせるだけで後は殆どシステムで対応できます。ユーザーもパソコンで注文できるので便利です。まさに、Save money Save timeです。利便性とコストパフォーマンスを考えたら街の本屋さんは、ネット書店に対抗できません。

私は旅行に行ったとき、まず最初に入るのは、駅の近くの町の本屋さんです。書棚の本を見ると、そこに住んでいる人がどんな分野に興味を持っているかがわかります。郷土史のコーナーに行けば、どんな偉人が住んでいたのか、どんな歴史があるのかも分かります。また、本屋さんに行って楽しいのは、セレンディピティが起こることです。セレンディピティとは何かを探しているときに、探しているものとは別の価値があるものが偶然見つかることです。ある本を買いに行って本棚を眺めていたら、思わぬ良書に巡り会うということが良くあります。このような体験は、ネット書店ではできません。

神保町には、喫茶店と書店が融合したペーパーバックカフェという新しい本屋さんもできています。このような試みは街の本屋さんを救うためのヒントになりそうですね。
【神保町のペーパーバックカフェ】
https://trip-s.world/paper-back-cafe
http://www.tokyodo-web.co.jp/cafe/

街の本屋さんがネット書店に対抗するためには、本屋をワンダーランドやテーマパークのようにしてしまうということだと思います。そこに行けば楽しめる、いろいろな人に会える、ためになる、そんな場所になったら街の本屋さんにも人が集まって商売が出来るのではないかと思います。本を一冊作るのにはたくさんの人たちが関わっています。本は単に知識や情報を伝達するだけでなく、形のあるモノとしての価値があります。新しい本を手に持った時の感触や匂いが好きです。

私は、あたたかい人の匂いがする街の本屋さんが復活することを願っています。(高25期 廣瀬隆夫)

【参考資料】
・ロングテール クリス・アンダーソン著 ハヤカワ・ノンフィクション文庫 2014年
・死ぬほど読書 丹羽宇一郎 著 幻冬舎新書 2017年
ロングテール ウィキペディア

    街の本屋さんの危機とロングテールの法則” に対して8件のコメントがあります。

    1. 佐藤(高34期) より:

      「平坂書房」の閉店が相次いでいるとのこと。どっこい馬堀店がまだ健在です。
      お店のホームページにも、実店舗として記述があります。
      店長に聞いたところ、閉店した店舗の「店長が諸事情で次々辞めてしまった」とか。
      馬堀店は、地元書店として、まだまだ頑張ってほしいです。

    2. 廣瀬隆夫 より:

      馬堀店が残っていたんですね。ガンバって欲しいですね。25期には、追浜堂の店主がいます。まだ、昔の場所でやっています。

    3. 饗場元二 より:

      残念ながら、私が在住する根岸町の北久里浜店はこの夏に閉店してしまいました。北久里浜駅の近くの非常に立地条件良いところに店を構えていたのに、時代の流れには逆らえなかったのでしょうね。私も、学生時代はよく本屋さん、特に横須賀中央の平坂書房には、三春町から自転車で通った記憶があります。

      1. 廣瀬隆夫 より:

        やはり、平坂書房に行かれていたんですね。私は、金沢区大道という田舎から横須賀中央という都会に出てきましたので、こういう、大型の本屋さんが珍しくて、よく行きました。学校の帰りに良く寄っていました。本屋さんは、中央の駅の交番の近くにもう1軒あったように記憶しています。ここは、横須賀の郷土史に関する本が置いてありました。

    4. 和田良平 より:

      本屋がなくなると言うことは、寂しいですね。町の本屋の問題点は、展示が少なく、注文すると時間が掛かる。今の世界では、これでは商売が出来ないのは無理ない気がします。ぼくの親戚に本屋がありました。伯父でしたが、本屋を開業し、その頃は日販とか東販といった取次店が相手にしてくれないので、大きなリュックを背負って仕入れに言っていましたよ。それを店先に並べる。棚にも並べる。なかなか大変な仕事でしたよ。そばで見たことがありますから。しかし、見たい本がない。頼むと1週間は楽に掛かる。だから頼まないでどこかの大きな本屋に出かける。その本屋もなくなってもう何十年も経ちます。娘が3人いましたが、誰も継がなかった。変わっていくことに寂しさを感じるけど、時代の流れでしょうかね。

      1. 廣瀬隆夫 より:

        街の本屋さんの歴史というのは、どのくらいあるのでしょうかね。戦後、西田幾多郎の「善の研究」という哲学書を買うのに本屋さんに行列が出来たという話を聞いたことがあります。ラジオやテレビが出てきて、今はインターネットが普及して本を読まなくなったと言われています。これは、単に活字を読まなくなったというだけでなく、物を考えなくなった、知的好奇心がなくなったということなのではないかと思います。今年も、日本人の吉野さんがノーベル賞を受賞しましたが、「善の研究」を一生懸命読んだ部類の人だと思います。これから何十年か経ってノーベル賞が取れるような学者が生まれるか心配です。街の本屋さんがなくなったということは、日本人の民度が落ちたということではないかと思いますが、いかがでしょうか。

        1. 和田良平 より:

          その通りだと感じます。スマホ文化って確かに便利ではあるけど、依存症にはなりたくない。電車に乗っていて周りを見ると、スマホをいじっている人が多いのに驚かされますが、これが実態なんでしょうね。何を見ているかちょっと覗いてみることがあるけど、ゲームをしているのが多い。そんなゲームが上手くなったからといって何になるんでしょうね?ゲームを開発して、大きな売り上げを出している人はそれなりにがんばっているけど、やっている人は踊らされているだけと思いますよ。私が電話の中で見るのは、乗り換え案内ぐらいですかね。必ず文庫本を2-3冊持って行きますから、その時の気分でどれを読むかを決めるのは楽しいことです。

          1. 廣瀬隆夫 より:

            電車の中で難しい顔をして画面を見ている人は、ほとんどゲームをやっている人ですね。まあ時間つぶしでやっていて、あまり向上心はないのでしょうね。これからは、ネットの時代で活字を読まなくなるのは当たり前というようなことを言う何処かの司会者のような人がいますが、時代のせいにしたらダメですよね。時代が間違っていることも、たくさんあるのですから。私も、文庫本は常に背広の内ポケットに1冊入れています。空き時間に読む本がないと落ち着かないのです。

            私は、スマホにブルートゥースキーボードをつないでワープロ代わりに使っています。六浦から日本橋まで1時間もありますので、記恩ヶ丘HPに掲載する記事の多くは、電車の中で書いています。こうして使っていると、スマホも立派なパソコンだということが分かります。軽くて打ちやすいキーボードが3000円くらいで手に入ります。

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