▶エントロピーの法則

<<エントロピーの法則(20190411)>> 高25期 廣瀬隆夫

コンピュータ上のデータを守るためのハッシュ関数というものがあります。ある文字列をこの関数にかけると、訳の分からないデタラメな暗号になる。コンピュータを使うときの鍵になるパスワードは、この関数で暗号化されています。これからから元の文字列を導き出すことは簡単には出来ません。これは一方向性関数と呼ばれています。人生において、ほとんどのことは、この一方向性関数ではないかと最近思ようになりました。うなぎを捕る道具に「うなぎ筒」というものがあります。餌の匂いにつられて筒に入ると後戻りできなくなり捕まってしまう道具です。これも後戻りできない一方向性関数です。

タレントのピエール瀧さんがコカインを飲んで捕まったのは記憶に新しいと思います。才能のある人だったのでショックを受けました。先日、薬物防止の講演で聴いたのですが、一度、麻薬を飲んでしまうと止めることは並大抵のことではないらしいです。最初は、風邪の症状が取れますよ、とか、疲れが和らぎますよ、という軽い言葉に釣られて飲むらしいです。でも、一度飲んでしまうと止められなくなってしまうということでした。麻薬を使うと反社会的行為として逮捕されますが、詐欺や窃盗などのように留置所に入って反省すれば更生できると言う簡単なものではないらしいです。一度やってしまうと、脳に浸み込んでウイルスのように脳細胞を侵していって病院に入らないと治らないということでした。麻薬で捕まった時に、多くの容疑者が警官に「ありがとう」と言うらしいです。これで、麻薬地獄から開放されるという安堵感から出る言葉だと思います。麻薬を飲む前の生活に戻りたいとみんな考えているそうです。麻薬常習は、犯罪というより病気に近いということでした。これも、やってしまうと後に戻るのが難しい一方向性関数ではないかと思います。

時間は前に進むだけで決して過去には戻れません。タイムマシンの話では、過去をイジるのはタブーとされています。人は年をとるに従って髪の毛も白くなり数も減っていきます。朝起きたら昨日より若返っていたということは絶対にありません。若返りの水を飲みすぎた村人が赤ん坊になったという昔話を読んだことがありますが、こんなことはあり得ないからこそ願望として話になっているのでしょう。人が住まないと家は汚れてしまい朽ちて行きます。このような廃家が急速に増えていて社会問題になっています。人が住んでいれば10年以上経っても家はそんなに痛みません。里山も人が手を入れているうちは秩序が保たれて荒れることはありません。

世の中には、エントロピー増大の法則という普遍的な物理法則があります。熱力学の法則第二法則とも言われています。熱力学の第一法則は、エネルギー保存則。何もないところからは何も生まれてこないという当たり前の話です。熱力学の第二法則は、熱いところと冷たいところがあった時、熱は熱いところから冷たいところに流れて最後は同じ温度になるという法則です。エントロピーの法則は、この熱力学の第二法則と同じものと理解しています。部屋は放っておく散らかっていく。きれいに片付いていくことは絶対にありません。生活していくとゴミが増えていく。その典型的なものが産業廃棄物。便利に使える製品を作れば作るほど、ゴミが増えていきます。

エントロピーは、乱雑さの度合いと考えられ、エントロピーが増えるということは、乱雑さも進むということです。諸行無常、万物は移り変わって行くのと同じでエントロピーは必ず増大します。宇宙は、ビッグバンで生まれたと信じられています。大昔に大きな爆発があり、どんどん膨張して今の宇宙が出来上がったと言われています。最初、暗黒の極寒の宇宙に線香花火の玉のような熱いものが突然現れて爆発を起こして広大な宇宙に拡散した。その玉は冷えていき、逆に宇宙は温まっていく。それが今でも続いているということです。宇宙の最後はどうなるのか。熱いものも冷たいものもなく同じ温度になり平衡状態になり安定する。それが宇宙の死です。何百億年も先の話ですので、ご安心ください。

年をとって人が老いて白髪になっていくのも、古くなって家が朽ちていくのも、このエントロピーの法則に支配されているからです。 石原慎太郎は、「老いてこそ人生」というエッセイの中でこんなことを言っています。「老いを食い止めることはできない。でも、健全な精神が老いた肉体を守ってくれる」と。久しぶりに旧友に会うと「元気か」と声をかけます。アントニオ猪木さんは、「元気があれば何でもできる!」と言いました。元気を保つこと、気持ちで負けないことが老いを食い止める秘訣ではないのかと思います。 

100歳を過ぎても現役の医師を続けていた日野原さんは、お年寄りに元気を配るために90歳を過ぎてFacebookを始めました。毎日のように珠玉の言葉を発信し続けました。105歳で亡くなった時、スケジュール表には数年先までの予定がびっしりと書き込まれていたらしいです。決して老いたという弱音を言いませんでした。エントロピーの法則を覆すことができるというマクスウェルの悪魔は、いつまでも元気を保つ強靭な精神ではないのか、と最近考えています。

【参考】
・エントロピーの法則(1982年)  ジェレミー・リフキン (著)、竹内 均 (翻訳)
・マックスウェルの悪魔 (ブルーバックス2002年) 都筑 卓司(著)

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