▶地球の温暖化と台風

大型で強い勢力を保ったまま上陸した台風15号、19号は、東海、関東地方を中心に激しい雨を長時間降らせ、河川の氾濫や、土砂災害など広範囲に大きな傷痕を残しました。

この台風によって亡くなられた皆様のご冥福をお祈りいたします。また、被害を受けられた皆様に心よりお見舞いを申し上げます。

今回の台風では、我が家でも雨樋や屋根のトタンが飛ばされたりという被害を受けました。雨戸を閉めてじっと台風が過ぎ去るのを待っているだけしか出来ませんでした。台風の恐ろしさ、自分の非力さを実感しました。そこで、台風について調べていましたら、地球温暖化との相関がかなり高いことが分かりました。台風についての基礎知識をまとめましたので報告いたします。(高25期 廣瀬隆夫)

■ 台風の発生のメカニズムと温暖化
熱帯の海の上で発生した低気圧を熱帯低気圧と呼びますが、発達して風速が速くなったものが台風です。台風は上空の風に流されながら移動していきますが、地球の自転の影響で北へと向かう性質を持っています。

はじめに台風の発生のメカニズムを簡単に説明します。熱帯の海上で太陽の熱エネルギーによって海水が暖められて蒸発し、空気の小さな渦が出来ます。渦は地球の自転の影響で北半球では左巻きになります。この渦の中心へと向かって、多くの水蒸気を含んだ空気が、まわりから集まり中心へと流れ込み上昇気流によって雲が作られます。雲が作られる過程で放出された熱が、まわりの空気をあたためて、さらに上昇気流を強めます。これを繰り返していくうちに、小さかった空気の渦が大きな渦に発達して熱帯低気圧を経て台風となります。台風は、通常、海面温度が26度以上になると発生すると言われており、海水の温度が高ければ高いほど熱エネルギーが供給され、大きな台風になります。


出典:温暖化で台風はどうなる?

気象庁のホームページに過去37年間の海水温度を測定したマップが出ていましたのでダウンロードしてみました。太平洋で台風が発達する黒潮域の9月上旬の海水面温度の推移です。測定を始めた1982年に比べて、2019年は、海水温度が2〜3度くらい高くなっていることが分かります。このマップを見ると温暖化が徐々に進行していることがよく分かります。巨大台風が発生した今年は、特に海水面の温度が高かったことが分かります。

【気象庁ホームページ】
https://www.data.jma.go.jp/gmd/kaiyou/data/db/kaikyo/jun/sst_HQ.html?areano=4
ピンクの方が温度が高くなっています。

■ なぜ、台風は日本に来るのか
日本の南東の海上では、台風の源となる熱帯低気圧は一年中発生しています。台風は北に向かいますから、日本が台風の通り道になっているのです。台風の進路は気圧に大きく影響されます。夏本番の時期は、南から日本を覆っている太平洋高気圧が強いので、台風が日本へやって来ても近づけない状態になっています。逆に冬は冷たい空気で日本全体が覆われているので近づけません。

台風は、夏の暑さが残っていて太平洋高気圧が弱まった秋を狙って日本へ上陸するのです。今回、関東地方を直撃したのは、気象庁によりますと、太平洋高気圧が例年より強く張り出しており、それを避けて高気圧の縁を回るように北上した後に、偏西風の影響で東に進路を変えたためということです。

■ 台風と気圧の関係
気圧は、昔はミリバールを使っていましたが、今はヘクトパスカル(hPa)で表します。圧力は、単位面積にかかる力の大きさです。力の大きさは、N(ニュートン)という単位で表され、面積の単位はm2(平方メートル)ですから、圧力の単位はN/m2(ニュートン毎平方メートル)です。これを、フランスの哲学者のパスカルにちなんでPa(パスカル)と呼びます。1N/m2は1Paです。1m2の板の上に1kgのおもりを乗せたとき、その板が地面をおす圧力は、地球の重力により9.8Paとなります。

h(ヘクト)は100倍を表すので、1hPaは100Paとなり、1m2の板の上に約10kgのおもりを乗せたのと同じ圧力になります。地球上の空気の気圧を平均すると、1013hPaであると言われています。これが「1気圧」です。地球上の空気は、約10tのおもりを1m2の板の上に置いたときと同じ圧力を,地球上の全ての物体に与えていることになります。もちろん、私たちの体も,同じ圧力を受けているのです。1013hPaより低いと低気圧、高いと高気圧になります。台風の気圧が低いと、まだ上昇気流が強いということで、台風は、気圧が低いほど大きくなります。今回の台風は、945hPaという大きな台風でした。

台風19号が来たときに、スマホに内蔵された気圧計を使って気圧を測ってみました。時間とともに気圧が変化することが確認できました。10月12日の15時から23時までの気圧の変化です。19時から20時に三浦半島を通過したというニュースと気圧の変化が一致しています。
【気圧計アプリ】
https://app-liv.jp/sports/outdoors/3301/

■ 私たちに出来ること
地球の直径は12800Kmですが、大気の厚さは、わずか100Kmです。この大気が、太陽からの強烈な放射熱から私たちの生活を守ってくれています。台風は、茶わんの湯(寺田寅彦)の湯気のように、その大気の中で起きている自然現象です。人間は、この茶わんの淵を歩くアリのようなもので、これだけ科学技術が発達しても、人間は台風をコントロールすることはできません。

今回、気象庁のホームページで太平洋の海水面の温度上昇の推移のマップを見て愕然としました。ここまで温暖化が進んでいるとは知りませんでした。CO2は赤外線を吸収する性質があり、地球温暖化の原因になっていることは科学的に明らかです。CO2濃度が地球より遥かに高い金星の地表は、400度を超える灼熱地獄です。海洋研究開発機構の杉正人氏は、地球温暖化が進むと、台風の発生頻度は少なくなるが、規模は巨大化すると言っています。「国連の温暖化対策サミット」のグレタさんの訴えにも耳を傾けるべきだと思います。(文末の【参考資料】を参照)

農業革命、産業革命、情報革命を経て、さまざまな産業構造の変化が起きる第4次産業革命(インダストリー4.0デジタルトランスフォーメーション(DX))が進行中です。私たちは、便利な社会を実現するために技術を目覚ましく発展させたのですが、わずか数百年で、地球を守る耐熱服とも言える大気のCO2を増やして地球温暖化を招いてしまいました。経済がいくら成長しても、温暖化が進んで地球が生き物がすめない星になってしまったら本末転倒です。

1970年代に太陽光からの有害な紫外線から人間を含めた地球の生き物を守っているオゾン層が破壊されていることが問題になりました。1989年に施行されたモントリオール議定書の措置によりフロンガスなどのオゾン層を破壊する物質の禁止が義務化されました。この措置が功を奏して、破壊されたオゾン層が回復の方向に向かっています。 2000年以降、オゾン層は10年毎に3%ずつ回復しており、北半球と中位のオゾン層は2030年までに完全に治癒すると言われています。
【施行されたモントリオール議定書の成果】
https://www.meti.go.jp/policy/chemical_management/ozone/files/pamplet/panel/07j_mp.pdf

CO2の削減も時間がかかるとは思いますが、諦めずに人類が知恵を絞れば実現できると思います。私たちも、出来るだけCO2を出さないように自分の日々の生活を見直していきたいものです。クーラーの温度管理、緑化による日陰の確保、電気製品の節電、無意味な深夜テレビ放送・24時間営業のコンビニの見直し、ビニール袋から買い物袋へ、公共交通機関の活用・・・まだまだ、私たちにも出来ることはあるはずです。統計学者で可能主義者のハンス・ロリングは、Factfulnessという本の中で「思い込みではなく、事実をもとに行動すれば、人類はもっと前に進むことができる」と言っています。【Factfulness ハンス・ロリング 著】https://lifehacking.jp/2019/01/factfulness/

台風は、秋になると日本に必ずやってきます。しかも、温暖化が進む限り台風の大型化は止めることはできません。もう、想定外で片付けられる状況ではありません。国や自治体は、堤防の強化や建築基準の見直しなど、巨大台風に備える施策を行う必要があると思います。台風の情報を天気予報で常にウオッチして、被害を最小限に食い止めるために早めの対策をするように心がけてください。

【参考資料】
■台風の科学 ブルーバックス 上野充・山口宗彦 著 2012年
■風はなぜ吹くのか、どこからやってくるのか ベレ出版 杉本憲彦 著 2015年
▶温暖化で台風はどうなる?
http://www.jamstec.go.jp/kakushin21/jp/sympo2009/PDF/04-Sugi_Tsuboki.pdf
▶グレタさんの「国連の温暖化対策サミット」での演説
http://hirose555-eco.blogspot.com/2019/09/blog-post.html
▶地球温暖化に無関心な風潮に危機感
http://hirose555-eco.blogspot.com/2019/10/blog-post.html

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