▶プーチンが「もしトラ」を待望!? (高22期 高橋克己)

scaliger/iStockより

1月23日にトルコがスウェーデンのNATO加盟を承認しました。同じ日、未承認だったハンガリーも「最後の承認国になりたくない」オルバン首相が、スウェーデンのクリスターソン首相をNATO加盟交渉のためブダペストに招くと表明したので、承認に向かう可能性が高いです。

NATOに距離を置いてきたフィンランドとスウェーデンが加盟を申請したのは、22年2月24日に始まったプーチンによるウクライナ侵略から3ヵ月経った5月のことでした。フィンランドは一年後の23年4月、ようやく31番目の加盟国として承認されましたが、スウェーデンは遅れていました。

トルコが反対していたのは、トルコがテロリストに指定したクルド人グループを両国が保護していると見做したからです。スウェーデンについては、23年に極右のデモ参加者がストックホルムのトルコ大使館前でコーランを燃やしたことも後を引いていました。

ハンガリーの反対理由は、オルバン首相が右派であるにも関わらす親プーチンだからです。彼はEUの対ロシア制裁に協調して、避難民を36万人以上受け入れました。が、ハンガリー領土内での武器輸送は拒否し、ロシアのエネルギーに対する制裁も排除するという綱渡り外交をしてきました。

私は露ウ戦争によっても、フィンランドはNATOに加盟しまい、と考えていました。根拠は同国が米英や北欧諸国との強固な二カ国間協定でNATO以上の便益を受けていたことと、ソ連との「冬戦争」「継続戦争」を戦い抜いた「シス」、即ち忍耐強いフィンランド国民の不屈の精神を思ってのことです。

スウェーデンも、ナポレオン戦争以降一切の戦争に加担せず、中立国として「軍事非同盟」を軸に多国間・二国間の安保協力政策をとってきたので、NATOは不要と考えました。が、露ウ戦争はアンデルソン首相をして「NATO加盟国でないなら、非常に弱い立場に置かれるだろう」と言わしめました。とはいえNATO加盟には、他の加盟国の戦争に巻き込まれるリスクもあります。

22年1月の「台湾とEU東部」に係る論考で私は「ブカレスト・ナイン(「B9」)」に言及しました。それはEU東部のNATO加盟国ポーランド、ルーマニア、ハンガリー、ブルガリア、チェコ、スロバキアとソ連崩壊後NATOに入ったバルト三国(リトアニア、エストニア、ラトビア)の9ヵ国のことです。

Wikipediaより

この「B9」にフィンランドとスウェーデンが加われば、ベラルーシ、ウクライナ、モルドバをEUとの境界とする、黒海からノルウェー海まで続くNATOの壁ができます。しかも表向きは非軍事的な交流を謳う「B9」ですが、ホワイトハウスのブリーフィングを見ると、必ずしも非軍事ではない。

実際にNATOは昨年12月、多国的戦闘群を強化し、バルト三国とポーランドをホスト国とするこれまでの4戦闘群に加え、ブルガリア、ハンガリー、ルーマニア、スロバキアをホスト国とする4戦闘群を増やし、8戦闘群とすることに合意しました。これにフィンランドとスウェーデンが加わるでしょう。

プーチンは、特別軍事作戦と称してウクライナを侵略した理由のひとつに、NATOが「東方不拡大の密約」を反故にしてきたこと、即ちNATOからの防衛を挙げました。私は、吉留公太神奈川大学教授の詳細な論考を引いて、「密約」が存在したとの主張に限ってはプーチンが正しいと論じました。

が、それから2年が経ち、NATOは北へも拡大しています。EUとロシアを隔てるベラルーシはすでにロシアの属国です。このうえ更にウクライナを侵略してロシアの一部にするなら、NATOの東方拡大によってではなく、ロシアの西方拡大によって、NATOとロシアが国境を接する事態を招くことになります。

そもそもウクライナのNATO加盟を防ぐべく始めた戦争が、国の安全保障に無益であるどころかむしろ悪化させつつあることに、きっとプーチンは気付いていると思います。「判っちゃいるけどやめられない」とすれば、就任したら1日で戦争をやめさせると豪語する「もしトラ」を待望しているかも。

    ▶プーチンが「もしトラ」を待望!? (高22期 高橋克己)” に対して3件のコメントがあります。

    1. 松原隆文 より:

      ここに意見を投稿することには多分の躊躇いがありましたが一言だけ述べたいことがあります。
      1962年のキューバ危機ですね。私が小学校5年でしたか。忘れもしませんが、新聞(夕刊)第一面にソ連がキューバにミサイルを持ち込んでいることを報道しました。
       当時のケネディ大統領はソ連にミサイルの撤去を要求し、フルシチョフはそれに応じて戦争が回避されました。キューバはアメリカとは海を隔て、民族も文化も異なります。しかし、アメリカは大いなる危機感を持ったのですね。
       転じて、ロシアとウクライナは地続きで、文化も人種もロシアと近いです。ウクライナは以前からNATOへの加盟を希望しておりました。ロシアは歴史的にナポレオンやヒトラーに国土を蹂躙されており根底には西欧不信があると思います。ロシアの肩を持つつもりは毛頭ありませんが、西欧諸国はこの戦争が起こるまで、ロシア側の物差しにやや鈍感ではなかったのか?と考えます。
       

    2. 22期 伴野明 より:

      記恩ヶ丘HPの会則には

      第6条(禁止事項)
      本会は、次の行為を禁止する。
      1.政治活動や布教活動に関する行為

      とあります。投稿された記事が政治的内容を持っている場合、主張の濃淡によって、「それが政治活動とも言えなくは無い」と思われる場合もあるでしょう。私が危惧しているのは、本来自由な発言の場であるこの会が過熱して、討論会ならぬ「闘論会」になってしまう可能性です。
      国内、及び世界情勢は今年、物理的戦争だけでなく、明らかに「思想戦争」が始まっています。
      そんな中、この会の投稿に、敢えて言えば「政治的投稿のガイドライン」的なものが必要なのではないでしょうか?
      ちなみに私は、この件を考え始めた段階で、何かをご提案できるレベルではありません。

      1. 高橋揚一(高22期6組大西昭先生学級) より:

        どのような表現も受け手をコントロールしてしまいます。
        私は茶化したコメントしか書けませんが、真剣に長文を精読される方もおられると思います。
        国語科教諭の大石凡先生は「詩は読み飛ばせば良い」と言っておられましたが、コミュニケーションは常に不平等であるのが現実です。
        受け手へのコントロールを意識した上での自由な表現を自由に解釈して思惟を巡らすことができれば良いのですが。

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