▶白木蓮の横を抜けて墓参のはしご(高22期 高橋 克己)

コロナ禍で引き籠もってしまい、3年余り会っていない幼馴染の「彼」が、肺癌で入院中と聞き見舞いに行った。親兄弟が他界していて天涯孤独の身、「彼」にもし万一のことがあったら、などと思いつつ病室へ行くと、ベッドでうつらうつらしている。

やりながら寝入ったらしい枕元の「ナンクロ」など眺めつつ寝顔を見ていると、気配を察してか目を覚まし、面会室を指さす。程なく杖を突いて現れた「彼」は思いのほか元気そう、声にも張りがあり、少し安心した。

病状や今後の治療方針、入退院の予定など書かれたペーパーを読みながら、聞いておかねばならぬことを切り出した。「ところで菩提寺はどこだい?」と明け透けに聞いたので、「彼」も「S寺」とあっけらかんと答えた。

それが1月の半ばのこと。などと書くと表題の「墓参のはしご」と読み合わせ、「さては?」と思うかもしれないが、そうではない。両親の眠る「市営墓地」が「S寺」の近くなのでこの4日、墓参のついでに「彼」の菩提寺を訪ねたのだ。

住職に「彼」の苗字を告げ「お墓ありますか?」と問うと、さすが住職、あるという。が、20年程は管理費不払いで、数回手紙を出したが戻ってしまうと。なるほど、督促半分で音信をとっているようだ。

住職に、実は私は「彼」の昔からの友人で、重篤な病に罹っているのを知って見舞ったところ、ここが菩提寺と判ったので、万一の時の費用などをお聞きしに来た旨、伝えた。

住職は、管理費が1.5万の20年で30万、当日の供養が5万、加えて、墓終いの40万ほどが必要になるという。焼き場も含めてざっと100万ほどかかると思われた。

聞いて私は、「そうですか、彼に蓄えがあると良いですね」と述べ、早々に退散した。いざと言う時、友人葬くらいはささやかに出せると思う。が、100万は無理かな、などと独り言(ご)ちながら、「彼」の両親とも親交のあった私の両親の墓前に報告した。

県道から「S寺」へ向かう参道の民家に立派な木があり、家人が白い花の写真を撮っていた。昔仕事で行った岩手の訪問先に白い花を付けた大きな木があり、聞くと「辛夷(コブシ)」とのこと。それを思い出し「コブシ」ですかと問うと、木蓮ですと家人。辛夷=白木蓮なのだが、黙って先を急いだ。(おわり)

    ▶白木蓮の横を抜けて墓参のはしご(高22期 高橋 克己)” に対して1件のコメントがあります。

    1. 加藤麻貴子 より:

      最近は未婚のまま人生を送る人、身内を失くし孤独に最後を迎える人が増加、さらにコロナ禍で従来通りの葬儀や周年忌も行われなくなり、お寺さんも大変だろうと思います。
      埼玉の娘の嫁ぎ先の近所にコブシの大木が見事に白い花を咲かせて、この時期に訪ねるのが楽しみでした。でも花が終わると道路に散乱する落花の掃除が負担になり切られてしまったそうで、残念に思いましたが、清掃を手伝う訳にもいかず仕方無いことなのでしょう。

    コメントを残す

    メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です