▶映画「オッペンハイマー」、監督の意図(高22期 高橋 克己)

横須賀高校OBOG談話室「記恩ヶ丘メールニュース4月号」で「▶オッペンハイマーと『原爆スパイ』」と「▶映画『オッペンハイマー』を観て来ました」を改めてご紹介頂いた際に、廣瀬さんから「この映画は、アカデミー賞で作品賞や監督賞など最多7部門を受賞しました。私は、原爆を決して許すことはありませんが、この記事を読んで、なぜ、この時期にこのような映画を作ったのかという監督の意図を知りたい」とのコメントを頂戴しました。

「この時期」について私は、米中対立の先鋭化に加え、22年2月にロシアのウクライナ侵略が起きて以降、プーチン大統領による核使用の仄めかしがしばしばあり、トランプ時代にはなかった米ソ対立が始まったこと、そして今や歴とした核保有国になった北朝鮮による核の搭載可能なミサイル発射実験が繰り返されているからではないかと思料します。

他方、「このような映画」を作った「監督の意図」については、[「アゴラ」に寄稿]したのでそちらをご覧願えれば幸いですが、その大要はこうです。

オッペンハイマーは広島・長崎への原爆投下を機に、開発責任者としての悔悟の念に苛まれ、水爆開発に異論を唱え始めます。他方、民主党トルーマン大統領とバーンズ国務長官は、前任ルーズベルト政権で暗躍したソ連スパイの一人アルジャー・ヒスが舞台回しをしたヤルタ会談での「密約」にあるソ連参戦の前に、是が非でも原爆を日本に落とさねばなりませんでした。

その理由は、ソ連の参戦で日本が降伏してしまうと、開発費20億ドルを議会承認を経ずに費やした原爆の効果を国民に示す機会を逸するだけでなく、ソ連に日本の権益の分配を迫られるからです。が、副大統領になってたった80日で大統領に就任し、前任者の敷いたレールを走らざるを得なかったトルーマンにとって、それだけが唯一自らの意志で出来ることだったからだとも、私は思います。

そこで監督は、2期目を民主党ルーズベルトに阻止された共和党フーバー大統領の長年の友人であり秘書でもあった「クーンローブ商会」重役のストラウス(ストローズ)、そして高橋是清から日露戦争用の外債の多くを購入したロシア嫌いのヤコブ・シフを後継するそのユダヤ系金融会社のストラウスを、オッペンハイマーと対立する水爆開発の急先鋒として描くことで、今の米国における民主・共和両党や中ソ対西側諸国の深い溝を考える補助線を引いたのではないでしょうか。

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