▶シニアからの小説執筆のススメ

同窓生のみなさん、元気でお過ごしでしょうか?

歳を取ると誰でも、体力が落ちて無理がきかなくなりますが無理をしなくてもずっと楽しめる、それが小説執筆の醍醐味であると私は思っています。人生100年時代と言われています。定年退職してから小説を書き始めて60〜70代で文学新人賞を受賞する人も増えているようです。(2月23日 高22期 伴野明)

紙と鉛筆だけあれば何もいらない。書くだけで無限の創造の世界が広がる、そんな趣味は他にはありません。どんな物語でもあなたが自由に作り出すことができるのです。設定は、どんなジャンルでも、過去でも、未来でも、どこでも可能です。絵画などの趣味もありますが、ややハードルが高い。文学という切り口では、詩や俳句などもありますが、私は『小説』をお勧めしたいのです。

■ 年齢は関係ない
若いから、逆に、年だからという障壁は関係ありません。若いなりに、高齢なりに、味のある違った小説が書けると思います。現に小説を書いている私は、今、71歳、書き始めたのは64歳ですから。

■ 向き不向きはあります
小説を書く努力をしたから、勉強したからは関係ありません。持って生まれた性格と同じく、向き不向きがあると思います。因みに私は運動オンチで、死ぬ気で練習しても、運動は中の下ぐらいがいいとこなんです。大事なのは自分が小説の執筆に向いているかです。私の友人に『ネタ自慢』の男がいまして、私が「小説を書き出した」と言ったら、「オレも書こうと思っていたんだ、大小のネタのメモ書きを沢山貯めてある。小説十作ぐらいは簡単に書ける」と豪語していましたが、二年経っても一作も仕上がりませんでした。彼は残念ながら小説の執筆に向いていなかったのですね。

■ 小説を書き出したキッカケ
始めは『小説を書き出しても完成できるだろうか? の不安と、何を書いたらいいのか思いつかない』が真っ先に来るはずです。そもそも私は文系の人間ではなく、骨の髄まで機械好きで、小説にはほとんど興味が無く、買って読んだことなどありませんでした。

思い出せば十歳のころ、平坂の図書館に通い、『少年少女文学全集』を夢中で読んだことぐらいです。ガリバー旅行記、小公子とか。それ以来、読書は『ゼロ』でした。もちろん書いたことなどありません。書いたのは我社の製品の取り扱いマニュアル、レースの全日本大会の開催案内ぐらいです。そんな訳で、私が小説を書くなど『月が地球に落ちてくることはあっても、決してないだろう』と思っていました。

明確なキッカケは、ピース又吉の『火花』の芥川賞受賞です。彼のことは名前だけしか知らず、芸風も知りませんでした。かなり話題になったので、「芸人の作家は珍しい、きっと面白い小説に違いない」と初めて小説を買ったのです。

通読しましたが、人によって評価は違うと思いますが、世間が騒いでいるほど面白いとは思いませんでした。「芥川賞って何なんだ」と思っている私に、日産自動車勤務の時代の上司から「これ、読んでみないか?」と勧められたのが『栄光への5000キロ』という石原裕次郎主演の日活映画の原作小説です。それは「すばらしい」の一言でした。アフリカの自動車ラリーに参加した社員が書いた小説です。

アフリカの空港に到着する飛行機の中から見える景色、意気込みなど実にリアルで引き込まれました。私にとって『火花』とは到底比較にならないほど素晴らしかった。しかも巻末に、「私は自動車整備の現場の、言わば『職人』です、作業報告書ぐらいしか書いたことがないのでお断りしたんですが、君しか書けないから、と言われたので仕方なく書きました」とあるのです。この言葉で目からウロコが落ちました。『小説とは、心の動きを文章にしたもの』と理解したのです。「それなら、私にも書けるのではないか」と小説を書き出したのです。

■ 小説を書く目的
最初の目的は、文学賞狙いです。○○賞の受賞作家、というステータスが欲しかったのです。残念ながら全部ダメでしたが、書いている間に、相当色々な勉強になりました。もちろん○○賞は諦めていません。『受かりそうな書き方』も思い浮かびました。今は、賞狙いだけでなく、『書く楽しみ』も分かってきたので、この『小説執筆のススメ』になったのです。

■ 小説を書くための勉強
ここは私流ですので、お勧めというより、「そんな書き方もあるんだ」程度にお読みください。事前の勉強は、あまり必要ありません。逆に勉強しすぎると考えすぎて書けなくなります。小説は、形にこだわる学術論文ではありませんので、形式を勉強してもあまり意味がありません。ネットを見ると、書き方や技法などいろいろ説明していますが、どれを見てもそれほど参考になりませんでした。

「他の作品を沢山読まないと書けるようになりません」と、どのような解説書でも、あるいは文学賞入賞者も言っています。いろいろな知識は必要ですが、小説をたくさん読めば良いというわけではありません。読んで、それが素晴らしいと感じるほど影響を受けてしまい、オリジナルが書けなくなることがあります。『コピー改』の小説になってしまうのです。自分だったらこう書く、と批判的に読むことが重要です。

文学賞に『受かりそうな書き方』が知りたければノウハウを勉強してください。しかし、ノウハウだけでは次が書けなくなります。文学賞受賞作家のほとんどが二作目に苦労して、書いても売れないことが多いようです。私はあまり勉強せずに書き始め、現在、長編を五作、書きかけ二作を書いています。

■ 私流の小説の書き方
YouTubeなどの『小説の書き方』を説明した動画には、「プロットがどうの、起承転結がどうの」と難しいことが書いてありますが、私はそのような前準備をしないで書き始めます。『絵』や『写真』のように、書き始めの現場のイメージを思い浮かべるところから始めるのです。そのイメージを広げていくのです。

始めは、どんな内容か、どんな展開か、主人公のイメージすら明確になっていません。それでも、とにかく書き始めるのです。

一例を示します。これはネタ元の方がお亡くなりになったので中断している小説『床屋の事件簿』の書き出しのエピソードです。散髪しながら床屋のご主人と雑談をした時の話がキッカケになっています。こんな内容でした。

「床屋さんって、小一時間、お客さんと話すじゃないですか、面白い話ってあります?」「そうですよ、皆さんリラックスするから、けっこう、際どい話とかありますよ、市役所の職員さんとか、これ、言っちゃマズイんじゃない?」みたいなのとかね。「怖いお客さんとかも来ますよね」「そう、一見ヤクザ。でもそういう人って、本当は優しい人が多いです」

それで「ピン」と来ました。これ、「小説のネタとしては最高」と。実際それを、こんなプロセスで文章化しました。

ヤクザの人が登場するシーンを思い浮かべます。
① 床屋さんが作業していると、ヤクザっぽい人が突然入ってくる
② 店に居た客と散髪中の人が「ギクッ」とする。
③ 床屋さんは普通に対応する。
①〜③の流れを想像します。

・入ってくる前後の展開と理由、なぜヤクザが入ってきたか
・すでに居るお客の反応と床屋の対応、ビビッたお客がどう動くか
・床屋さんがどう対応するか

実際の小説は次のようになります。

◆ ◆ ◆
仮題【小説 床屋の事件簿】

「ズザッ」車が止まる音がした。
ドライヤーをかけながらチラッと駐車場を見る。白いレクサス、かなりグレードの高いバージョンだ。運転手が駆け降り、後部ドアを開けた。喪服にサングラス、「……ほお、」武は雰囲気で察しがついた。

「ドンッ」床屋のドアが強めに開いた。

ガタイの大きな運転手と小柄でサングラスの男が入ってくる。
「マスター、急ぎなんだけどなぁ」先に入った運転手が武に低い声で言った。
「いらっしゃいませー」武はドライヤーを一瞬止めた。

「すいませーん、もう少しでこの方終わりますが、次の方が待っておられるんで、ちょっと時間かかりますよ……」
武は待合の椅子を見てくれと目を流した。サングラスの男が、運転手を押しのけて前に出た。

「マスター、どうにも急ぎなんだ、……先客がいるのは分かった。そこを頼みだ、先にやってくれねえか?」
状況はわかった。ヤクザが急いで散髪をやってくれと頼んでいるのだ。先客がいるにもかかわらず、だ。

「お客さん、ご希望はわかりますけど、……」
「二人分払うからよ」大柄な男が武の言葉を遮って言った。
武は、――無理を言うなよ――が顔に出ている。

「あっ、あの、私、急いでないから先にどうぞぅ」椅子で待っていた客が雰囲気を察し、場を取り繕うつもりで言った。
「松井さん、……いいのぅ?」武が、悪いなと、松井さんに会釈した。
「武さん、オレ、今日は一日暇って言ったじゃん」松井さんは、気にしないでいいからさ、と手で合図をした。
「松井さんかぁ、助かります、すいませんねぇ」意外にもサングラスの男がしっかりと礼を言った。

よかった、武はちょっと肩の力が抜けた。ヤクザといっても行儀のいいやつもいる。この連中はいい方だな。
武は、いま散髪が終わった客が異様な雰囲気に、自分にとばっちりが来ないかと冷や汗を流していたのを感じていたからだ。

ヤクザが席に着いた。
「ハイッ、どうしましょう?」
「同じ形のまま整髪して、セットも頼む」
「わかりました」武は洗髪を始めた。
「お急ぎみたいですね、ご葬儀ですかね」武が話しかけた。

「いやぁ、お世話になった会長が急に亡くなってね、その連絡がオレんとこだけ届くのが遅れたんで焦って飛んで来たんだ。義理を欠いたらたいへんだ。葬儀場はここの近くだから、もう間に合うって安心したらよ、頭がボサボサだったのを思い出した。そしたらここに床屋があって助かった。それで無理言っちゃったわけよ」

「そうだったんですか、この近くっていうと総合祭場かな?、失礼ですけどお亡くなりになったのはどちら様ですかね?」「ああ、あんた地元だからたぶん知ってるよな、蓮池組。その会長が亡くなった」

「蓮池組? 産廃の蓮池さんかな、……えっ、なに、会長が亡くなった? えーっ、知らなかったなぁ、それだと私も行かないとまずいな」武はちょっと手を止めた。

「いやぁ、葬儀つったって、もう今は昔みたいに大げさな葬儀はしねえんだよ、だから身内と付き合いの濃い人しか声かけねえ」散髪は進んだ。

「顔、剃りますよね?」
「ああ、剃って」

「私、実は蓮池さんとは同級でね、若いころ悪友だったんですよ」武が顔を剃りながら昔話を始めた。
「えっ、会長と同級?……」「そうですよ。こう見えても私、昔、突っ張っててね、蓮池さんとけっこう張り合ってたんだ」
「会長と?……」ヤクザの話が止まった。しばらく何かを考えている。

「マスター、苗字は?」「東条ですが?」
「名前はなんでしたっけ?」「武です」
「東条武!――」ヤクザが突然叫んで起き上がろうとした。

「あっ、あーっ」急に動いたため武の剃刀が滑り、すっと口の脇に赤い筋ができた。切れた――すぐに血が滲んできた。
「すいません、すいません」武は焦った。
「血が出ちゃいました、すぐ止めます」

「おおっ、オレが急に動いたのが悪いんだ、マスターのせいじゃない」
なんとヤクザはそう言うとあわてて椅子を降り、いきなり土下座をした。(続く)
◆ ◆ ◆

いかがでしょうか。次が読みたくなりませんか?

導入部のイメージから始まって、偶然来た客の行く葬儀の仏様が床屋の主人と知り合いだったという展開につなげます。現場のシーンを思い浮かべると、セリフと背景、心情が簡単に浮かんできます。どんどん書き進んで、小説が行き詰まったら、行き詰まる原因を分析して、解消するために前に戻って小説の中に伏線を入れれば前に進むことができます。結末は話が半分以上進むと勝手に思い浮かんできます。自分はそうでした。書く前に全体のストーリーや起承転結などを考えすぎると書けなくなります。

私は普通に生活しているときに小説のネタを探すことにしています。そのネタを種にしてイメージを膨らませて、ストーリーの中で、「この人はなぜ怒っているんだ、相手はどう対応するのか」などと自問自答しながら書いていけば、簡単にアイデアが出てきます。それが『伴野流』の小説作法です。

小説を書くことで頭の回転の訓練にもなり、ボケの防止につながると思っています。横高をご卒業されたみなさんであれば、通常の文章力は備えていると思います。よろしければトライしてみたらいかがでしょうか?きっと自分だけの楽しい小説を書くことができますよ。

お時間がありましたら、私が書いた小説をお読みください。
【虚構の塔】
https://kiongaoka.sakura.ne.jp/blog/2023/02/18/kyokou/

    ▶シニアからの小説執筆のススメ” に対して1件のコメントがあります。

    1. 廣瀬隆夫 より:

      小説の作法をご伝授いただき、ありがとうございました。とにかく、書きはじめてみる、ということのようですね。今は、パソコンがありますので、書き損じの原稿用紙で部屋中がいっぱいになるということもなくなりました。毎日の小さな出来事や心の変化などを文章として残しておくのは、記憶があやしくなった私にとっては魅力的です。私もチャレンジしてみたいと思います。(高25期 廣瀬)

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